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勇者と魔王と聖女は生きたい【42】|連載小説

「マオ様、ウェル様!私、あそこに行ってみたいです!」

僕たちのテーブルの横に立ったのはティアだった。弾んだ声と、指で示したのは先ほどまで彼女が眺めていた壁に掛かった絵画である。

「あそこ?」

腕を取られて無理矢理立たされ、絵画の前まで引きずられてしまう。
マオも後ろからパフェを手に食べながら着いてきているようだ。

「遺跡、か?」

そこに描かれていたのは、森の中にある蒼を基調とした遺跡であった。
古代の建物だろうか。一部倒壊している。あまり見たことがない建築物だが、どこか神秘的な雰囲気を出していた。

「宿屋のおばさま曰く、2つ先の山の中にあるそうです。危険なので誰も近づかないそうですが……」

「危険?倒壊しそうとか?」

「いえ、魔物が棲みついているそうです」

「えっ?魔物!?」

つい先ほど、マオと「この辺りは魔物がいない」と話したばかりだったため過剰に声が出てしまった。

「幸い、遺跡から出てこないので害はないそうですよ」

「遺跡から出てこない?人を襲わないのか?」

「さぁ?なんでも、遺跡に隠された秘宝を守っているとかなんとか……秘宝に目がくらんだ盗賊や旅人が遺跡に入って行ったそうですが、誰も戻ってこなかったそうです」

「秘宝」

しまった。仮にも勇者であった僕としたことが、盗賊と同じく目がくらみそうになった。旅費が心許なくなってきたため、すごく惹かれる単語だ。どれくらいの価値があるのだろう。……いやいや、考えてどうする。
心の中で葛藤している僕を置いて、ティアは行く気満々で輝いた顔をしていた。

「危険だから、と宿屋のおばさまに止められてしまいましたが、私たちならきっと大丈夫です」

勇者と魔王ですよ?と言葉に出ていないが、聞き取ってしまった。
ぐらり、と僕の意思が揺れるも、マオが先に苦言をあげた。

「ティア、そういう油断は命取りだぞ。あまり褒められたことではないな」

「……あ、そうですよね。ごめんなさい」

ティアがマオに叱られて、しょんぼりと落ち込んでしまった。
僕も心の中で落ち込んだ。盗賊と変わらない考えをしてしまった自分に恥じた。

「うむ。では行こうか」

「えっ、どこに?」

落ち込んで謝罪を口にしたティアに対し、鷹揚に頷いたマオが徐に言った。
唐突な言葉に僕もティアも首を傾げた。

「その遺跡に決まっているだろう」

「えっ、行ってくれるんです?」

「私らなら大丈夫だろ。勇者と魔王だぞ」

「おいちょっとまて」

ティアを宥めておいて、ティアと言っていることが変わらなかった。

「旅費を稼ぐためにも秘宝は欲しいだろ」

そして、迷いがないだけで、僕が葛藤していた気持ちと変わらなかった。



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