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勇者と魔王と聖女は生きたい【58】|連載小説

「お主をのけ者にするつもりはない。故に、今、こうやって話しておるではないか」

「えぇ……本当かなぁ」

話の展開上、ついでに僕に話したように感じたのだが、気のせいだろうか。
肩を落としている僕に、マオはベッドから起き上がる。

「そうだとも。エルをどうするのか、最終的に決めるのはお主だからな」

「僕?」

「被害者はお前だろう。私も、ティアも、被害者であるお主の意思を尊重したいと思っておる」

"被害者"は僕だ、とマオは言う。

「エルがお主に"謝罪"をしたら、どうしたい?」

「謝罪?」

「お主を傷つけたことの謝罪だ」

……ああ、そうか。
マオも、ティアも、僕を蔑ろにするエルを怒っている、と言っていた。
"蔑ろにしている"と二人が言っていたのは、エルが再会してから一度たりとも僕に謝罪をしなかったからか。
僕を、殺そうとした、あの時のことを。

「謝罪をしたエルを、お主は許せるか?許せぬか?どちらの判断でも、私は理解できるぞ」

マオがそう僕に問いてきた。
女神の預言のまま生きてきた僕は、意思を決めるのが苦手だ。
女神の預言があるから、決める必要がなかった。
だから、マオは僕に2択を用意しつつ、どちらを選んでも良いと言ったのだろう。だが、マオの配慮を溝に捨てるようで申し訳ないが、僕の意思は決まっていた。

「僕は、どっちでもいいかな」

そう言うと、マオが呆れたような顔をした。

「お主なぁ」

「いや、本当に、どっちでもいいんだ。僕の本心だよ、マオ」

何も決められない僕だったけれど、これは、"そう"じゃないんだ。

「本当に、どっちでもいいんだ。エルに、かつての仲間に、興味がない」

「ん、んん、なるほど、そーいうことか」

「そう。きっと、前までの僕なら、かつての仲間たちに心動かされてたんだと思う。許せないって怒ってたんだと思う。けど、今の僕にはティアと君がいるから、他はどうでもいい。僕は今、満ち足りてるんだ」

「うん、現在満足しているから過去なんてどーでもよい、ということか」

「だね」

「吹っ切れてきおったなぁ、お主も」

「マオのおかげでね」

少しずつだけれど、マオの言う通り吹っ切れてきたのだろう。

「では、エルをどうするかは私が決めてもよいな?」

「うん。マオの判断で仲間にしても大丈夫だよ。それはそれで、たぶん、ちゃんと仲間になれると思うんだ」

「エルがしっかり心を理解したら、そうなるだろうな。あやつ、そう悪いやつではない」

「魔犬の良さが分かるから?」

「んなわけがあるか」

僕のふざけた言葉に、マオが鋭く返す。

さて、そのエルはティアとうまくやっているだろうか?



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