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勇者と魔王と聖女は生きたい【18】|連載小説

「さて、あらためてお主の顔を隠すものを探すか」

「うん。流石にひよこのお面は僕ももう嫌かな」

ウェル様がひよこのお面を外して手に持ちます。可愛いですが、旅には不向きですよね。

「あ、じゃあ私は宿屋へ……」

まだここまで街のお祭り騒ぎの声が聞こえてくるのだから、街中は人だかりになっていることが想像できます。
自分が行くと、また倒れてしまって二人の手を煩わせてしまいます。お祭りには興味が惹かれない、と言ったら嘘になりますが、ご迷惑をお掛けするわけにはいきません。

「お主の場合、人を見なければいいのだろう?」

「そう、ですね……ドサッ!と人を見ると、"見えすぎて"私の許容量が超えるのです」

「見えすぎる?」

「うむ。まぁ、その辺りは追々説明してもらうとして……」

マオ様が私に確認をして、ウェル様の手からひよこのお面を奪いました。そして、私をしゃがませて頭にお面をかぶせます。

「これで視界が狭くなって、最低限の人だけを見れるぞ」

ひよこのお面には、小さな円の穴しかありません。
これは確かに最低限の人だけ見ることができそうです。

「確かに、ミーティアの髪も整えてもらわないといけないしね」

「うむ、ひどすぎるぞ」

「え!そうですか?」

肩辺りで切ってしまったし、自分で確認ができません。ですが、ついついお面をしたまま後ろを振り返ってしまい、慣れない視界でよろめいてしまいました。

「わ」

「危ないよ、ミーティア!」

慌てた様子でウェル様が私の体を支えてくれました。

「ご、ごめんなさい。でも、ティアって呼んでくださいね、ウェル様」

「あ、そっか。僕も名前を変えた方がいいかな?」

ウェル様の疑問に、マオ様が首を傾げます。

「どうかのう?私は人間社会のことはよう分からんが、この街では聖女のことを"聖女様"や"ミーティア様"と呼ぶ者もいたが、勇者は"勇者様"という肩書で呼んでいる者しかおらんかったが……お主の名も世に広まっておるのか?」

私自身、女神の預言を見るために人と接する機会はありましたが、"聖女"呼びと名前呼びで半々といったところでしょうか。
ですが、基本的に王都の教会内にいる私には、"勇者事情"は分かりません。

「僕の勇者としての年期って2年やそこらだから、あまり広まってはいないと思うよ。ミ、ティアが聖女になったのは……」

「10年前ですね。肩書と一緒に、名前も殆どの人がご存知かと」

「うむ、なるほど。ティアの名前詐称は妥当だの」

「詐称」

そう言われると何だか悪いことをしているみたいで複雑です。
とはいえ、女神の預言から逃亡しているのだから、もう既に悪いことをしているのですけど。

「"顔を隠したウェルという男"。知る人が聞いたらお察しだが、そこまで気にせんでも良いのではないか?お主の名、ありきたりだし」

「悪かったな、ありきたりで」

「でも、私、ウェル様のお名前、好きですよ」

「そ、そう?」

ウェル……"幸運を招く者"。
流れ星に関係する私の名前よりも、ずっと意味が込められていて良いと思うのです。

「ほれ、イチャイチャしておらんで行くぞ。勇者様に聖女様よ」

「あら、置いて行かないでください。お供します、魔王様」

おふざけをしながら、先頭を歩くマオ様に、聖女と勇者である私とウェル様は後ろを付いて行きました。


そして、仮面の購入と、髪を整える目的を終えて宿屋に戻ると、マオ様は自分の体に戻りました。
次の日の昼頃、戻って来たマオ様は、目を瞬かせました。

「……なんでティアは落ち込んでおるのだ」

「あー、何から話せばいいか……」

ウェル様がマオ様に説明をする声を聞きながら、私は肩を落としました。

私に"魔法の才能がない"、なんて。

今まで知らなかったのですもの。



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