勇者と魔王と聖女は生きたい【29】|連載小説
見つけた宿屋で僕たちは少し遅くなった昼食を取っていた。
マオだけはパフェを食べていたが。
「うまい!人間の作りだすデザートだけは良いものだな」
「っていうか、魔犬って食事はいらないって話じゃなかった?」
「いらんが、食べれないわけでもない」
魔犬種、ケルベロス。
マオの魔犬のレクチャー通りであれば、食事は空中にある魔力だけである。だけども、食べれないわけではないなら、この魔犬を愛するマオであれば何でも与えていそうだ。
「まぁ、私の食事よりお金をかけて食べさせている」
「魔王の食事よりも、高い犬の食事とは?」
「さすが」
勇者一行(勇者不在)から逃げるという非常事態であるにも関わらず、魔犬について長々と語るだけある愛犬家である。若干、アイシャにかけているお金の額を知りたくなったが、たぶん開けてはならない蓋の気がして触れるのを止めた。
「……この町にも、もう聖女と勇者の死は知らされているのですね」
食事をとりながらティアが窓の外から、町の様子を見る。
歩いている時は宿屋を探す方に注視していて気付かなかったが、座って落ち着いて町を歩く人を見ていると、総じて服装に黒色を取り入れていた。喪に服しているのだ。
「なんか……複雑だね」
「ですね」
実は生きてここで呑気に昼食を食べてます、なんて申し訳なさ過ぎて居心地が悪い。
「人間の町と町の情報共有方法はどんなものなのだ?」
「え?伝書鳩が主流かなぁ」
「ふーん。伝書鳩か……確実性はないな」
「だね。商人から話を聞くこともあるし……だから、よっぽど大事だと、伝書鳩よりも遅いけど人も同時に走らせるらしいよ」
「なるほど。王都から遠い町ほど情報が遅い上に、行き渡らない可能性も高いな」
「田舎だとそれで困ったもんだったよ」
僕の生まれ故郷がまさにそれだった。
王都より最も遠く、山の中にある小さな村。のどかで、喧騒なんて無縁で。とても平和な村だった。
「…………」
帰ることはできないんだろうな、と僕は口に入れた食べ物を飲み込んだ。
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