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勇者と魔王と聖女は生きたい【13】|連載小説

「う、ううーん……」

「おぉ、ようやく起きたか?」

少し、デジャヴを感じる台詞だった。
ベッドの上で唸りながら身じろぎしたミーティアに対して、今回は少し距離を取りながら様子を見るマオの姿が笑いを誘った。
マオに睨まれたため、誤魔化すための咳払いをする。

「ミーティア、大丈夫?」

「私、どうして……」

「広場で倒れたから、宿屋に戻ったんだ」

「あ……」

前回と違い、ゆっくりと起き上がるミーティアに、マオが納得がいかない顔になりながらベッドの縁に座る。

「申し訳ありません。お手間をお掛けしました」

「いや、それは良いんだけど……」

「気分が悪い時は早う言わんか」

「はい。すみません」

落ち込んでいる様子に僕は戸惑っていると、マオがはっきりと文句を言った。言っていることは正しいのだけども……ミーティアがますます肩を落とした。

「人に、酔ってしまって……」

申し訳なさからか、目を泳がせながらミーティアが倒れた原因を口にした。
マオの眉が一度跳ね上がった。

「人混みが不慣れか?しかし、それはマズイのぅ」

「そうだね。さっきのお触れで、街中がお祭り騒ぎになってて、もっと人が多くなってるみたいなんだ」

最初は、教会の象徴でもある聖女が亡くなったのだから、喪に服すべきだと揉めていたようだった。ついでに勇者も亡くなっている。
だが、魔王を倒したことは喜ばしいことでもある。
喪に服すか、魔王討伐の祝いに騒ぐかで揉め事を起こしている教会や役人、街の統括。そんな揉め事を横目に、収益を見込んだ商売人が店を出し始めたことで、どんどんとお祭り騒ぎに発展していって誰も止められなくなったようだった。

「安売りしているから、入用が多いこちらとしては助かるが……」

「この人混みは、ミーティアには厳しいかも……」

「そう、ですね。留守番をしています」

だが、一人宿屋に残すことも心配なのだけども。
マオの仮説だと、女神の預言通りに生きる者が、僕たちを追ってくることはないそうだが、教会の"闇"が追ってくる可能性があるという話だ。
僕とマオ、どちらかが残るべきだと思うのだが……。

「私はこのカラダだからあまり荷物が持てない。かと言って、お前一人で行って女物を買えるのか?」

「…………」

そもそも何を買えばいいのかも分からない。
必然、ミーティアを宿屋に残して買い物に行くしかなくなったわけである。

「私は大丈夫なので、どうぞ行ってください」

マオの言う通りではあるのだが、やはり何かが起こるかも、と迷ってしまう。こんな時、女神の預言があれば何が起こるか分かって迷わないのに……。
ミーティアの後押しがあっても迷っている僕の姿に、肩を竦めたマオがポケットから何か小さな物を取り出した。

「これをお主にやる」

ミーティアの手の上に置いたのは、小さな犬の形を模した笛だった。首からぶら下げるための紐も付いていた。

「まぁ、かわいい」

ついでに言うと、紐にも犬の模様が入っているのだから、マオの魔犬好きがうかがい知れる。

「それを首にかけて、服の下に隠しておけ。何かあった時に声が出なくても、笛を口に付けて空気を吐き出すことぐらいはできるだろう?」

「ふふっ、そうですね。きっと、それぐらいなら私にもできます」

「そうしたら、私とウェルが駆けつけてやる」

クルクルと色々な角度から犬の形の笛を見つめながら、ミーティアが嬉しそうに笑った。

「私、人からプレゼントをもらうのは初めてです。大切にしますね!」

「うむ。だが大切にするよりも、危険なときにちゃんと吹けよ」

「はい!大切にします!」

「……ほんとに分かっとんのか」

有頂天なミーティアに、マオが呆れた顔をする。
そんな二人を見て、笑っている自分がいた。



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