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勇者と魔王と聖女は生きたい【7】|連載小説

どれくらい歩いただろうか。
暗い地下を歩き、下水の臭いで鼻をやられながら歩き続けた先に、光が見えた。

「あかるい」

ぽつり、と疲れた様子でミーティアが呟いた。
聖女の肩書を持つ彼女が外に出ることは少ないため、体力もない。疲れ果てるのは当然だろう。

「ほれ、出口は近い。降りろ降りろ」

魔王がプルリ、と軽い身震いをしてミーティアに降りるよう促す。途中、体力の限界を迎えた彼女を、魔王が魔犬の姿に戻りさらに巨大化をして乗せて運んでいたのだ。
ミーティアが降りた後、またプルリと体を振ってから人化した魔王は、光の先をじっくりと観察した。

「先回りは、なさそうだな」

「ああ、おそらくは」

僕、魔王、聖女の順に警戒を強めながら進む。
光が近づくにつれて、心臓の鼓動が強くなる。
人の気配はない……と、思う。
だが、もしも武器を向けた騎士たちが待ち構えていたら?
また、かつての仲間たちが殺意を向けていたら?
悪い方へと、想像が膨らむ僕の足取りは重い。

「外は、この先には、一体どんな楽しみが待っているのでしょうか?」

「え?」

僕の心境とは裏腹に、ヨタヨタと覚束ない歩みで歩くミーティアが喜びに溢れた明るい声を発した。

「昨日までの私は、明日の私を知っていました。明日、何が起こるのか、何を思うのか、何を言うのかまで、明日のことを知っていました。
けれど、今はこの光の先に何が待っているのか分かりません。私には、それが楽しみでならないんです」

「辛いことが、絶望が待っているかもしれないのに?」

「えぇ、明日が分からないことが、私には嬉しいです」

「…………」

それは、僕には理解できない考えだった。
今まで女神の預言に頼って来た僕は、次に何が起こるか分からない状況が怖くてたまらない。
この光の先に行くことも怖い。

「……魔王はどう思う?」

「私は自分のやりたいようにやるから、楽しいことしか待ってないな」

「それもすごいな」

すごい身勝手な生き方だった。
足取りが重い僕を魔王が追い越す。

「いいですね、私もやりたいことをやりたいです」

「ほう、お前のやりたいことはなんだ?」

「そうですねぇ、まずは旅をしたいです」

「しばらくは旅になるぞ」

「あ、逃亡生活ですものね。じゃあ、自分を鍛えてみたいです」

「鍛える?」

「はい!いつまでもマオ様たちに頼っていては、今までと変わりませんから!」

ヨタヨタとした足取りのミーティアにも、追い抜かれてしまった。
僕は、いつの間にか歩みを止めていた。

「ウェル様は、何をしたいです?」

ミーティアが振り返る。

「僕は……」

何を、したいんだろうか。

「ぼく、は……」

この光の先に行くことすらも怖がっている僕に、何ができるのだろうか。

「やりたいことを見つけたい」

「!」

「で、いいんじゃないか?」

迷っていた僕を見かねたのか、魔王が肩を竦めて言った。

「やりたいことは、無理をして見つけ出すものじゃないぞ」

「そうですよ!この先、可能性は無限大です!なんでもできますよ!」

「なんでも」

「はい!あ、外は海が近いみたいですね!」

疲れているはずなのに、ミーティアが駆け出す。
慌てて魔王も続いた。あいつは、意外と面倒見が良い。
いや、僕の傍にいてくれているのだから、面倒見が良いことは知っていたが。

「ウェル様!早く早く!」

笑顔で手招きをするミーティア。彼女の呑気な様子に呆れた顔をしている魔王。
しばらくは、彼女たちと共にできれば。

「今、行く」

僕も変われるだろうか。


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