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勇者と魔王と聖女は生きたい【48】|連載小説

「エル、本当に行くのかい?」

「当然でしょ」

後ろから付いてくるハイス・アラケルに、うんざりしながら言葉を返す。
この質問をされるのは、何度目だろうか。
城から出るために歩いている私の後ろを、戸惑った様子で付いてくるハイスに肩を竦めた。

「それに、あんたには関係ないじゃない」

別に、一緒に旅をしたからって、親しくなったわけでもない。
私にとって、"勇者一行"はただの同行者にすぎない。

私のすべては魔法。

私の興味は魔法ただ一つだけ。だから、私は魔法学校でずっと魔法の研究が出来れば、それで良かったのだ。
彼らとの旅は、女神の預言に詠まれたから、仕方なく、嫌々着いて行ったにすぎない。"少しは魔法に詳しいやつがいるかも"、"女神に選ばれるぐらいの人となら魔法談義ができるかも"、と期待したけど、そんなこともなく、始終つまらない旅に終わった。
だというのに、この男は私を見かけたら声を掛けてくるし、こうやって私の行動にケチをつけて時間を奪うのだから腹立たしい。

「でも、君の預言では、彼を追うことを詠まれていないのだろう?女神の預言に反する行動は許されることでは……」

「何度も言わせないで!私にとって優先すべきことはね!女神の預言よりも、魔法なの!」

「え、エル、それは……」

私の言葉に、ハイスは慌てて周囲を見渡す。
そりゃそうよね。女神の預言を蔑ろにする発言をしたものは、例外なく教会に捕まるのだから。けど、教会が怖いからって魔法の研究を止めるつもりは毛頭ない。
思い出すのは、魔王を倒して城に戻って来た日。
"擬い物"だと判断されたウェルを退治しようと、私が火の魔法を放った時だ。

「あの時、私の火の魔法の支配権は、確かに誰かに奪われたのよ。こんなこと、はじめてだわ。何度か試してみたけど、他人の魔法の支配権を奪うなんて出来もしない。学長に聞いても寝耳に水」

"ウェルに放った火の魔法が、私の意に反する動きをした"。
その話を聞いた学長は、新しい魔法の可能性に目を輝かせていた。できるなら自分が彼を追いたいと言うぐらい興味津々だし、彼を追う私の後押しをしたのだが……それは、ハイスに言う必要はないだろう。

「ウェルの"擬い物"にそんな力が……野放しにするには、危険すぎるな。騎士長のレアムトさんに退治の相談をした方がいいんじゃ……」

「はぁ!?止めてよね!魔法について聞きださないといけないんだから!!」

「だが、聞いたところで大人しく答えてくれるとも思えないが……」

「あら、そお?私はイケると思ってるわよ」

「何か根拠があるのか?」

「あの時の状況を冷静に考えてみればいいじゃない」

あの時、私たちは"擬い物"の言葉に耳を傾けずに攻撃をしたけれど、彼はそれでもこちらを攻撃することはなかった。
私から支配権を奪った火の魔法だって、こちらへ攻撃せずに壁へと放った。あの魔法をこちらに放っていたら、こちらが全滅していただろう。
それなら、今も、彼にこちらを攻撃する意思はほぼないとみて間違いない。
冷静に考えれば明白だ。

「僕には、エルの根拠が分からないな」

「……ふぅん」

けれど、ハイスをはじめ、レアムトもシオンもそれに気付きもしない。私よりもよっぽど仲間意識があるはずなのに。

「……女神の預言の弊害ね」

「え?」

「なんでもないわ」

自分の中で何を重きに置くか。
私は魔法に。彼らは盲目的に女神の預言を崇拝している。特にレアムトとシオンは病的でもある。

「……そういえば、レアムトとシオン、あんたはまだ付き合いあんの?」

「え?レアムトさんは毎日の稽古の時に一緒になるし……シオンは、あれから会ってないよ。忙しいみたいだよね」

「ふぅん。レアムトは知らないけど。シオンは、ヤバイ状況だから会わないことをおすすめするわ」

「ヤバイ?」

「私がアイツを追うって聞いて、滅茶苦茶ヒスってキレられて暴れられたから」

「ヒスって……あのシオンが?」

旅の間のシオンを思い出しているのだろう。懐疑的なハイスだけれど、私は別に信じてもらいたいわけでもない。
ただ単に、旅をしたよしみで警告をするだけだ。

「シオンは次の聖女候補に選ばれてるらしいけど、上手くいっていないらしいわ。それが原因か知らないけど、何が琴線に触れるか分からない状態よ。近づかない方が良いわ」

「仲間が困ってるなら、放ってはいられないだろ?」

「仲間、ね。あんたは仲間が大事なの?」

「ああ、大事に決まっている」

「じゃあ、仲間と女神の預言。どちらか取らなければいけない時、あんたはどっちを取るの?」

「え」

「私は魔法と女神の預言を比べて、魔法を取ったわ。レアムトとシオンは迷わず女神の預言を取るでしょうね。じゃあ、あんたは?」

「僕は……」

「迷ってるなら、まだあんたはレアムトとシオンとは違う。そんな状態なら、絶対にシオンの琴線に触れるわよ。じゃあね、もう会うことはないでしょ」

「あ……」

後ろでハイスが力ない声を出していたが、私はもう意識の外に追い出した。

私は、女神の預言よりも魔法が大事で。

仲間よりも、魔法が大事なのだから。



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