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勇者と魔王と聖女は生きたい【50】|連載小説


「――……悠々と里帰りかと、ルーファウスは考えているだろうな」

「マオ様?」

「いや、こっちの話だ」

各方面から追われていることに気づく由もない僕たちは、あの場から離れるために急いでいた。
とはいえ、前にティアを歩かせて、僕とマオで痕跡を消しながら進んでいるのでそう早いスピードではないのだが……。

「……なぁ、マオ。その話なんだけど……」

「ん?」

ルーファウスの名が出たことで、僕はどうしても気になっていたことを口にした。

「アイツらには、お前の生存を話した方がいいんじゃないか?」

「……」

「だって、アイツらさ、お前が死んだって聞いた時、悲しんでたぞ」

思い出すのは、僕が魔王の間から出てきた時の光景だ。
ルーファウスという男は、僕に見向きもせず慌てて魔王の間へと駆けて行った。あのアリスという子は、泣き崩れていた。
あの涙が嘘だとは、とても思えない。

「きっと、お前のこと、大切なんだ」

「あー……」

いつも自信満々なマオらしくなく、口ごもった。
そんなマオの様子を見て、言ってはいけないことを言った気がした僕は慌てて否定した。

「あ、いや、ごめん。もちろん、マオの意思に任せるけどさ」

「いや、咎めているわけではない。おかしい、と思ったら遠慮なく言ってくれ。私はお前たちの独裁者になりたいわけじゃないからな」

その言葉に、ホッと肩の力を抜いた。
マオは「お前の言いたいことも分かるのだ」と複雑な顔をしたまま言った。
ティアも気になったのだろう、不思議そうな顔をして振り返る。

「何か生存を言えない理由があるのですか?」

「うむ。理由はいくつかあるのだが……一つ目は、魔族側も一枚岩ではないのだ。ルーファウスとアリスは無条件に私を慕ってくれているが、他の奴らはそうでもない。ほぼ大部分は私が強者故に跪いているだけだ」

「まぁ、ルーファウスとアリスが意外だっただけで、魔族は弱肉強食のイメージだよな」

「そう人間側にも伝わるほどだ。一度勇者に敗北した私への当たりは強くなる」

「え、じゃあ、俺のせいで……」

「違う。文句を言うやつはまた叩きのめせば済む話だ。問題はそこではなく、さらにその中に、女神の預言信者もいることが問題なのだ」

「ま、魔族にも女神の預言信者がいらっしゃるんですか!?」

思わず、という様子でティアが驚愕の声を上げた。
いや、ティアの反応も分かる。
女神の預言と魔族。
光と闇、聖と邪。空と地のように、とても相容れない関係なのだと思い込んでいたのだから。

「うむ。人間側のように全国民ではないがな。表立って言わんから正確な割合は不明だが、一定数はいる」

「ほぇー、魔族さんが預言を……イメージがわきませんわ」

「私もだ」

「えぇ……」

ティアの言葉に同意をするマオに、僕は何とも言えない言葉を漏らす。ティアはともかく、魔族の頂点に君臨する魔王すらイメージがわかないなら、誰も想像できないだろう。

「誰が預言信者か分からんから、誰がどういう行動に出てくるのかも分からん。ルーファウスとアリスも……可能性としてはありえる」

「あ……」

マオの言葉に、僕は理解した。
そうか、女神の預言だと、マオもあの時、死んだことになっているのだ。
僕のように、かつての仲間たちに剣を向けられる可能性もあるのか。

「そうだ。お前と同じく、かつての仲間が私の排除に転身する可能性だ。私を慕ってくれている分、"擬い物"が勝手に魔王の体を使っていることに激情し、なりふり構わず襲ってくるかもしれん」

僕は、知っている。
信頼し、共に戦ってきた仲間たちに剣を、殺意を向けられる痛みを。
その可能性があるのなら、もうマオに"彼らに生存を伝えろ"とは言えるはずもない。

「なりふり構わなくなったルーファウスだぞ?こわいからむり」

「いや、自信満々にいうことじゃないぞ、それ」

上司としてどうなんだ、それ。
考えなしに言ってしまって気に揉んでいたが、ぶっ飛んだ。

「何を言う。お前たち人間側だってそうだろう。人の王に、勇者のお前を止められるか?」

「そうだけどさ……」

血族によりトップが決まる人側と、弱肉強食でトップが決まる魔族側の事情が違うだろ。



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