勇者と魔王と聖女は生きたい【96】|連載小説
落ち着いたティアと共に、部屋に戻ってエルと合流する。
「あの貴族の僕ちゃんの女神の預言が見えなかったのに、今日になって見えるようになった、ね。それもまた興味深いけど」
朝の件をエルに説明すると、素っ気ない声で返ってきた。
完全に壁画と精霊の件で拗ねている。
「エル、機嫌を直してください~」
「いや、機嫌が悪いわけじゃないの。冷静になって考えてみると、遺跡がある場所まで戻れるはずがないものね。無茶を言って悪かったわ」
肩を竦めて、僕らに軽く謝罪をする。
一晩立って気持ちに落ち着きができたようだ。
「ただただもどかしいのよ~~!答えがすぐそこにありそうなのに!」
……そういうことらしい。
遺跡に行くことを止められたことに、怒っているわけではないようだ。
「せめて答え合わせをしたかったけど、師匠は戻ってきてないんでしょ?」
「そうなんだ。夜も度々様子を見てたんだけど……」
「そう。話したいことがたくさんあるのに」
「まったくだよ」
僕もティアも、エルも……マオに話したいことや相談したいことがたくさんある。マオの登場が本当に待ち遠しい限りだ。
「でもそうね、女神の預言が見えなかったのに、今日になって見えるようになった件で可能性としてありそうなのは……」
「ありそうなのは?」
「昨日と今日で別人だったとか」
「えぇ?まさか」
まさかね、と発案者のエル自身もあまり本気で言ったわけではない様子で肩を竦める。
「じゃあ二重人格とか?」
「二重人格?」
ティアがぱちくりと目を瞬かせた。
「二重人格だと女神の預言ってどう見えるの?」
「……私、会ったことがないので分かりません。考えたこともありませんでしたわ」
"女神の預言が復活する"という話から少し顔が固まっていたのだが、まるで光が差したかのようにティアの顔に明るさが戻る。
「ま、ティアの能力は他に例がないわけだし、検証なんてできてないわけだし、いろいろな可能性がありそうね」
「そう、ですね。ちょっと安心しました。エル、ありがとう」
安心?とエルが首を傾げる。
答えはまだ分からないが、さまざまな可能性があることがティアにとって救いとなったのだろう。
少し元気を取り戻した様子のティアに安心した。
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