勇者と魔王と聖女は生きたい【38】|連載小説
(2022/02/16:一部修正)
「聖女サマが?この俺に何の用だぁ?」
恐る恐る男の顔が見える位置に立ったティアは、戸惑う様子を見せた。
何度か口を開いては閉じ、2度ほど繰り返してようやく言葉を発した。
「どうして……」
ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた。
「どうして、あなたは"女神の預言"に従わないことができるのですか?」
「……あ?」
その男が、言葉の意味が分からず疑問の声を上げた。
「あなたの人生は順風満帆です。今もとても恵まれた地位にいて、平和に暮らせている女神の預言が、私には見えるのです」
「……え?」
女神の預言は、基本的に"詠む"ことで知ることができる。
女神の預言を詠む方法は、教会に所属する人間にしか分からない。だが、一般的に知られているのは、女神の預言を詠む方法は"相手に触れること"。
触れている相手の預言が頭の中に文字、あるいは言葉として浮かぶらしい。それを分かりやすく相手に解説するのが教会の人の仕事だ。
唯一の例外は、対象が人ではなく、一年の世界の大まかな行く末を詠むことができる聖女である。だがそれも、女神から贈られる文字が頭に浮かぶのだといわれている。
なので、"見える"という言い回しが引っかかったのだ。
「私には、女神の預言が目に見えるのです。人に重なって、その人の未来の映像になって見えるのです」
「未来の、映像……」
ティアの説明は、とても僕の頭に理解できる話ではなかった。
未来が映像になっている、というのは想像の域を超えている。
「触れなくとも、目に映るすべての人の未来の映像が見えてしまうのです。人の姿を隠すように」
「ほーう……ナルホド。だから、私たちのことを……」
――……"人間"がお二人いるように見えますよ。
僕達が、ティアに出会った時に言った言葉が頭によぎる。
そうか、城に女神の預言から外れた"擬い物"がいるはずがない。
彼女の言う事が本当だったとして、人の姿に重なるように未来の映像が見えているのだとしたら。
彼女が初めて"人間"を見たのは、あの時、僕とマオが初めてだったということになる。
何年も、十何年も。
それもまた、僕の想像の域を超えるような話だった。
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