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勇者と魔王と聖女は生きたい【59】|連載小説
*
「…………」
「…………」
私とエルの2人は、無言のまま街の中を歩きます。時々、旅に必要なものが売っているお店に寄る時に一言、二言だけ話すけれど、無言の時間の方が圧倒的に多かった。
「…………」
マオ様は、私に何を期待しているのでしょうか?
つい先日、"ティアが聖女であることをエルに話すが、かまわんか?"とマオ様は聞いてきた。一番分かりやすく判断ができるからと。けれど、そう都合よく教会の刺客が襲い掛かってくるとは思えません。何か、別の目的があるはず。
「ねぇ」
「あ、はい!?」
「あそこの本屋、寄ってもいーい?」
「本屋……?」
エルに話しかけられて、つい素っ頓狂な声を上げてしまいました。彼女が指し示す場所には、確かに本屋があります。
断る理由もないため行くことを了承すると、エルはズンズンと先に歩き始めます。慌てて後に付いて行くと、彼女は本屋に入ってすぐにカウンターへと向かっていった。
「この本、売りたいんだけど」
鞄から出して、ドサリとカウンターに置いたのは、分厚い本が十数冊。
よくこの旅の間、持って歩いていたものだと感心してしまいました。私も最近は余裕が出来て、本を持ち歩くようになったけれど、1冊か2冊が限界です。
「代わりに、魔法関連の本で新刊が欲しいのだけど、どこに置いてるかしら?」
「それなら、奥の棚にあるよ」
本を受け取った店主のおじいさんが答える。
本を確認しているおじいさんを置いて、エルは店の奥へと進む。私もその背中を慌てて追いかけました。
「う、売ってしまうんですか?本を?」
「えぇ」
「旅に持ってくるほど、気に入っていたのでは……」
「もう覚えたし、私には必要ないわ」
「必要、ない……」
あっさりとそう言うエルに、私は茫然としてしまいました。
人にも冷たいと思うけれど、物に対しても執着がないことが分かったのですから。
「……あんたは」
「はい?」
「…………」
エルの隣に立って本棚をぼんやりと見ていた私に、エルが声をかけた。
けれど、続きがなく、眉をギューっと寄せて、口をモゴモゴさせているだけで、しばらくダンマリする彼女に首を傾げました。
「……あんたは、本、売らないの?」
ようやく口を開いたと思ったら、私への質問でした。
「うーん、私はずっと本を取っておきたいと思いますから、あまり売ることはありませんね」
「そう。……本を置ける場所があるのは、いいわね」
「あ、そうですよね。本を置ける場所にも限りがありますもの」
つい、城にあった私室を想定して話してしまいました。
確かに、本来なら本を置くスペースがなくなってしまうのだろう。
「えぇ、あまりに買ったままにしていたら床が抜けたわ」
「そんなに!」
「だから仕方なく本を売っている面もあるのよね」
「なるほど。今なんて根無し草ですから……もっと持てませんよね」
「そう。私もあまり、体力があるほうじゃないし……さすがにあの重さはキツイわ」
トントンと会話が弾む。
"本"というキーワードが、私とエルに合致したのだろう。こんなに会話をしたのははじめてです。
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