勇者と魔王と聖女は生きたい【53】|連載小説
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「うーん?うーん?」
街道、と呼ぶには心許ない細い道の傍ら。休憩がてら軽食を取っていたティアが右へ左へと首を傾げた。
「どうした?ティア」
同じく美味しそうに食べていたマオが訊ねる。
「なんだか、肌がぞわぞわ?ぴりぴり?します。気のせいでしょうか?」
「ほう」
マオが感嘆の声を出して、不敵に笑う。
しかし、その手にはサンドイッチが握られているので、どうにも真面目な雰囲気にならないのだが。
「僕も、空気が変わったように感じる」
「うむうむ。二人とも、いい感覚をしているな。覚えておくとよい、これは精霊が動いている感覚だ」
パクリ、と最後の一口を食べたマオが、得意げな顔をして人差し指を立ててレクチャーする。
「そうなのですか?いつも私たちが魔法を使う時と違いますけれど……」
「だろうな。これは、精霊が私たちに殺意を向けているものだ」
「え?精霊が?どうしてです?」
「誰かが私たちに魔法で攻撃しようとしている、ということだな」
「へぇ。誰かが私たちに魔法で攻撃を…………攻撃!?」
「…………え!?僕たちを!?」
のんびりとした口調、ゆったりとした体勢を保つマオの雰囲気に飲まれて、僕もティアモのんびりと聞いていたが、その言葉を理解して慌てて立ち上がった。
ティアもまた、土の魔法を使って籠城の準備に入ろうとする。
「"炎の魔素よ、踊り狂え"!」
しかし、遅かった。
女性の声が、魔法を唱える声が辺りに響き渡った。
今さらなすすべもなく、僕たちに炎が迫り、そして、そして……。
「わん」
犬の鳴き声……を、真似たマオの声がした。
瞬間、一直線に迫っていた炎が上に舞い上がり、上へ上へと昇っていく。
「……どこまで、行くのでしょうか?」
「さ、さぁ……」
消えたのか、見えなくなったのか。
僕たちに迫っていたはずの脅威はどこかへ行ってしまった。
「……それで、今のが相手の魔法の主導権を握ったわけだ。覚えておけ、今度やらせる」
「え?"わん"、でできるんですか?」
「ちょっと待って、何がどうなってこうなったのか全然分からないから!」
マオの無茶ぶりと、見当外れなことを言うティアに僕だけが慌てる。
僕が今の現象を見るのは2回目とはいえ、どうやってそうなったのか見当もつかなかった。おそらく、精霊にお願いしているのだろうけども。
いや、というか、のんきに話している場合ではなかった。第二波の魔法が来るかもしれない、と僕は剣を構える。
「やっぱり……!!」
しかし、第二波は来なかった。
聞き覚えのある声を共に、魔法を放ったのだろう茂った草の影から出てきた姿に僕は息を飲んだ。
「おまえ……!?」
「あの時、私の魔法の操作を奪ったのはアンタね!!」
「エル!」
城で僕に魔法を放ち、殺そうとしていたかつての仲間が、そこにいたのだった。
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