勇者と魔王と聖女は生きたい【12】|連載小説
宿屋を出て、大通りへ出ると人が大勢行き交っていた。
知り合いはこの街にいないが、万が一にも自分の顔を知っている者がいたとしても、早々気付かないだろう。
そのことに、ホッとしながら少し歩く。
「まず、どうする?」
「まず服を見たいな。いつまでもお主のマントを借りるのも変だろう」
「……子ども向けの?」
「うむ」
子ども向けの服を売っているお店はどこにあるだろうか、と考えていると街の空気が変わった。
ザワリと街の人々が騒ぎ出すのが肌や耳に感じる。僕の存在がバレただろうか、と一瞬身構えたがそうではないらしい。
「お城からお触れだ!」
「勇者が魔王を倒したぞ!」
わぁ、と歓声に空気が揺れる。お触れの内容を叫ぶようにして知らせまわる男たちが横を通り過ぎていった。
「ほう、それは良い知らせだの」
その魔王が、勇者である僕の隣で感嘆の声を上げているのだから、僕だけ何とも言えない気持ちになった。
「人間のお触れはどんなものなのだ?」
「どんなって……広場で王城の使者がお触れを読み上げるんだよ。もう、終わった後だろうけど」
「ふぅん」
何に興味が惹かれたのか、ぐいぐいと街の広場の人混みを進んで行くマオの後ろを、僕は慌てて付いて行った。
広場には、もう王城の使者はいなかった。街の広場で使者がお触れの内容を読み上げた後は、お触れの内容が書かれた紙が貼りだされているのだが、一般的に識字率は低いため、読むのは商人ぐらいだ。僕もあまり得意ではない。
「のう、お姉さん達」
「あら、なぁに?」
マオは、広場にいた3人の女性たちに声をかけた。
「お城からのお触れは、勇者が魔王を倒したことだけなのか?」
「いいえ、それが、勇者様は魔王と相打ちになられたとか……」
「へぇ、勇者は死んでしまったのか!」
どうしてだか楽しそうな声を上げるマオ。勇者である僕は生きてここにいるわけなので、悲嘆に暮れないのは分かるけども……知らない人から見ると不謹慎なのだから止めて欲しい。
「魔王討伐の一番の功労者だというのに……」
女性たちの様子は、なんだか塞ぎ込んでいるような複雑な空気をしていた。勇者が死んだ、ということが、ここまでダメージを与えるだろうか?
「それに、不気味なことに、聖女様も同時期に亡くなられたのですって」
「えっ」
どうしてだか、マオが声を上げた。
ミーティアは自分が殺されることが女神の預言に詠まれた、と言っていたのだから、亡くなった知らせが届くのは当然だと思うのだが……。
「ご病気だったとは聞いていないけれど……」
「とても急よね。お亡くなりになった理由は分からなかったし」
「この国は大丈夫なのかしら」
「聖女様に、死んだ魔王の呪いが降りかかったのでは……」
「いつか国中に魔王の呪いが広がったりはしないかしら?」
「怖いわ、勇者様も聖女様もいない状態で何かあったらどうするのかしら」
「魔族の残党だって残っているでしょうし……」
僕たちのことを忘れて、好き勝手に話し始めた3人の女性から離れ、広場の端に寄った。
考え込んでいるマオに僕は首を傾げる。
「魔王の呪いって言われたのがショックなのか?」
「そんなもの好きに言わせておけばよい。そんなことよりも、あのお触れはどうも稚拙だのう」
「え?」
「勇者が魔王と相打ちになり、同時期に聖女が死んだと知らせていることだ。この国にとって勇者と聖女の存在は大きい。その両人が同時に倒れたなど、民に混乱が生じることは分かり切ったことだろうに」
「でも、事実だし」
「内政は事実だけ知らせりゃいいというもんではないわ」
広場を見渡すと、魔王討伐の知らせに喜んでいる者達が多かったが、中には先ほどの女性たちのように、どこか不安そうな雰囲気をしている者達もいた。
「一体、どんな考えでこのお触れを……」
考え込むマオが、僕は心底不思議だった。
「女神の預言に詠まれていたんだよ」
それ以外に理由はないのに。
「そっ……んなこと……ありえる、のか?」
「うん。普通だろう?」
「……ふつう……」
絶句している様子のマオに、僕は再び首を傾げた。
女神の預言の通りにしたら、良い未来しか待っていないのだから。その通りに動かない方がおかしいだろう。
「…………」
マオは頭を抱えだした。
「そ、そういえば、ミーティアが静かだね?」
「ん、そういえば」
変な空気になったので、話をミーティアに振る。
僕たちの後ろから付いて来ているのは確認していたが、外に出てから一言も話していないミーティアの顔色を伺う。
「……お主、顔色が真っ青だぞ?」
「ど、どうしたんだ!?」
「ひと、よって……」
人に酔った、と言いたかったのだろうか。
ミーティアは再び泡を吹いて倒れたのだった。
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