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お元気ですか

以前から妹さんのなかしましほさんのことを知っていたのだけれど、ニットデザイナーの三國万里子さんを知ったのはわりと最近のことだった。
おふたりが同郷で中学の先輩だと知ったのはもっと最近で、おどろいた。いくつかの点と点が線になった感覚がした。

9月に出た三國さんのはじめてのエッセイ集『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(新潮社)が気になっていて、読む前に、高橋源一郎さんのラジオにゲスト出演されたのを聴いた。
高橋さんが内容を紹介する際に発した固有名詞に耳を疑った。

「丹後先生」。なつかしい、中学の国語の先生。

書店をいくつかまわって(品切れ気味のようだった)今日やっと入手。どきどきしながらページをめくった。

先生は非常口でしゃがんでいた三國さんに声をかける。稲垣足穂が好きときいて、全集の一冊を貸してくれたという。
当時の先生は、強く聡明な大人の女性に思え、フェミニンなヘアスタイルとファッションも魅力的で、ほっとさせてくれた。良心と
彼女の授業、私も好きだった。国語がより好きになった。
面倒見がよく、いつも気にしてくれていて、声をかけてくれた。
在学中に父を亡くしたときには、親身になって話を聞いてくれた。
気心が知れているようだった母とは友達のように話していて、そのことにも安心したものだったが、三國さんのエピソードを読むと、誰でも分け隔てなく、ひとりで何か考えこんでいる子には声をかけてくれていたのだろうな、と想像する。

いろいろとあったときだったのだと思うけれど、おしゃれした猫が彫られた木製の手鏡をいただいた。とても気に入っていた。なぜか結局、いまは母が使っている。

これからわたしは「自分なりに自分のことをやっていく」ことにするけれど、その先にはもしかしたら特別な友達が待っているかもしれない。そしてそれはきっと、丹後先生みたいな人なんじゃないか、という予感がした。

三國万里子「早退癖」(『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』)


三國さんのエッセイを読んで、あらためて先生にお礼が言いたくなった。
先生、お元気にされていますか?


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