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理科の自由進度学習


はじめに

今回のテーマは理科における自由進度学習です。(厳密には「単元内自由進度学習」ですが、記事内では「自由進度学習」と記載します)

理科授業の基本は帰納的な問題解決型ですが、今回は演繹的アプローチ(先に結論を示してから実験に取り組ませるもの)を取りました。賛否両論ある部分かとは思いますが、演繹的であるべきか、帰納的であるべきかという議論は一旦置いておきます。演繹的アプローチで自由進度学習を行った結果、こんな良い姿が見られました、こんな効果がありました、こんな課題もあります…ということをお伝えします。

帰納的アプローチと演繹的アプローチについて、興味のある方は以下の論文が非常に面白いので読んでみてください。

理科教育における帰納的・発見的アプローチに対立する諸見解について
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900116855/13482084_61_271.pdf

理科授業の「現実」

「理科の授業で教科書を使っていますか?」という問われると、多くの先生方は「ほとんど見せない」と答えるのではないでしょうか。なぜなら教科書には実験方法も、実験結果も、結論も全て載っているからです。実験前に結論を知ってしまっては、理科を学ぶ楽しさが損なわれると考えるわけです。私もそうでした。

「初めに教えて、そのあと考えさせる」という授業をすると意外な顔をされてしまうのが、理科という教科です。「結果がどうなるかをしっかりと予想させてから、実験するのが当然だ」というわけですね。確かにそれも大事ですし、そういう授業も必要です。

しかし、全ての単元でそれを目指すとどうなるか。経験上、授業が中途半端になります。学級担任が理科を持つ場合はなおさらです。実験と実験の間に時間が開き過ぎてしまったり、実験がうまくいかず「本当はこうなるんだよ」と説明せざるを得なくなる、行事の準備で忙しく途中から講義形式になってしまう…。
「現実的な問題」が現場には多いわけです。

であるならば、この単元は「探究的な授業」、この単元は「演繹的な授業」、この単元は「講義形式の授業」と割り切って理科のカリキュラムをデザインしていった方が、結局は子どもたちの成長にもつながるのではないかというのが私の考えです。

先にも述べた通り、今回はこの中でいうところの「演繹的な授業」ということになります。
自由進度的に子どもたちが自分たちで問題解決の流れを体験しながら、単元の学びを行なっていきます。

演繹的アプローチを取り入れた自由進度学習

帰納的ではなく、演繹的。
先に結論を示して、その結論が確かであるか検証していく方法です。

「演繹的推論のみで実験を行った場合、結論が先にあるため,実験自体が結論の確認作業になってしまう」との批判も考えられますが、児童自らが自分の力で実験計画を立て、必要な道具を準備し、結果をまとめ、結論が確からしいことを証明する。という経験を積むことができます。

続いてこのアプローチが学習指導要領に則っているか考えてみます。

学習指導要領における理科の目標は以下の通りです。

 自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察, 実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学 的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関す る基本的な技能を身に付けるようにする。
(2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。
(3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

【理科編】小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説

5年生の「思考力、判断力、表現力等」においては以下の記載があります。

(条件を制御しながら調べる活動を通して)
自然の事物・現象について追究する中で、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現すること。

【理科編】小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説

「基本的な技能」「問題解決の力」「解決の方法を発想し、表現する」などが並びますが、これらの力をつけるためにはやはり「自ら考え、実験する」という経験が必要です。

しかし「こういった手順で仮説を確かめていくのだ」という経験が不足しているために、「仮説が立てられない」「条件制御ができない」「そもそも何のために仮説を立てるのかが理解できない」「どういう手順でノートをまとめるのか」ということが起こります。

仮説を立てることや、解決の方法の発想も大切ですが、教科書通りに一度問題解決の過程を自分たちだけの力で回してみるという経験を、思い切って一単元分取ってみるということも十分アリだと考えています。この経験が、「基本的な技能」「問題解決の力」「解決の方法を発想し、表現する」などに繋がっていくはずです。

そこで今回行ったのが、「思い切って教科書をフル活用し」「問題解決の過程を子ども自身で回し、経験的に身に付けさせることを狙った」「自由進度学習」です。

単元の流れ

まず前提として、今回の実践は2月のものであり、問題解決の過程や条件制御については指導済みです。そのため、「基本的な手順についてはある程度のスキルが身についている状態ではあるものの、自分たちだけで行うのは初めて」という学級の実態になります。

単元:5年「ふりこのきまり」

  1. オリエンテーション…ここでふりこの定義や「おもり」「糸の長さ」「ふれはば」について確認します。身の回りにある「ふりこ」を紹介しながら、「振り子の1往復する時間は『糸の長さ』によって決まるらしい」ということを伝え、教科書の内容を確認していく。この段階では「結論」ではなく「仮説」として伝えます。実験で根拠を得て、確からしいことが確認できてはじめて「結論」になると伝えます。(1時間)

  2. 学習カードをもとに、1で学習した内容が正しいということを各チーム実験を行って証明するという課題を伝える。(2〜5時間・自由進度

※毎時間初めに、学習カードを基にその日の授業を自分で「デザイン」し、最後に振り返り、また次の時間に生かしていきます。この部分については以下の記事に詳しいです。

用意したもの

・学習カード(ダウンロードしてご覧ください)
※難波駿先生のご著書「超具体! 自由進度学習はじめの1歩」を参考に作成しました。
・自作できるふりこの実験セット
※市販のセットもありますが、実験内容の意味を体験的に理解するには「自分で作る」ことが一番の近道だと考えています。

今回の実践で見られた子どもの姿

演繹的アプローチに対する批判は先に述べたように「子どもの意欲が損なわれる」というものです。しかし、今回実践していた感じたのは「意欲が全く損なわれていない、むしろ高まっている」というものでした。

実験を「やり直す」子どもたち

先に学習した「仮説」(教科書のまとめ)とのズレがあった時に実験を「やり直す」姿が見られました。一斉に毎時間行う授業ではなかなか見られない姿です。実験の「やり直し」は時間的に厳しい印象がありましたが、自由進度だと「4時間で3つの実験」になるため比較的余裕を持って実験できました。理科の実験時間を圧迫していたのは「一斉指導」という枠組みのせいだったのかもしれません。全てのチームが時間内に全ての実験を行い、まとめることができました。

自分たちで問題解決の過程を回す子どもたち

自分たちだけで問題解決の過程を回す姿が見られました。これを狙っていたので当然ですが、「この仮説を確かめるにはこのページの実験だね」「この道具があれば便利!先生にお願いしよう」「この結果を得るためにはどんな計算をすれば良いかな」と話し合いながら進める姿がどのチームにも見られました。

他チームとの比較を行う子どもたち

他のチームと実験結果の比較を自然に行う姿が見られました。従来の一斉指導では、黒板に各チームの結果を書かせて共有するなどしていましたが、それよりもずっと議論が盛り上がりました。

黒板に結果が出揃ってから「さあこのズレは何で生じたのかな?みんなで考えよう」も確かにありです。しかし、経験上時間がかかる上に置いてけぼりになる子が多いです。今回のように自由度が高いと、「ねえねえ、実験①の結果見せてくれる?」「あれ?何でこんなにズレてるんだろう?」「ちょっとこの時の実験装置作って見せてよ」「ここの計算間違ってない?」という会話が自然と出てくるわけです。

自由進度学習における教師の役割

上記のような子どもたちの姿を教師がスルーしてしまうと、その場限りの学びになってしまいますが、私はすかさずメモして全体で共有しました。
「1分だけ、先生に時間くれる?」と言って、
「AチームとBチームでこんな話してたんだけど、他のチームではどう?」
「Cチームの〇〇さんがこんなことに気づいてDチームにアドバイスしてた。みんなのチームは同じミスしてない?」
と言ったように教師が良い姿や実験において有益と思われる情報をタイミングを見計らって全体共有しました。場合によっては、その場で簡単にスライドにまとめて説明することもありましたし、わざとスルーして失敗させ、「良い失敗をしたね」とそこから学ばせることもあります。
こういったやり方の方が、時間効率的にも、学びが自分ごとになりやすいという意味でも価値が高いと感じました。

課題

今回は学習カードを丁寧にし過ぎてしまった感がありました。お膳立てし過ぎたという感覚も若干あります。とはいえ、学級の実態を考えた時にこれ以上は難しいかなという感じもあります。
導入でいくつかの問題を決定し、あとは各チームにやり方を委ね、その様子を見取り、情報を全体で共有しながら進める、というやり方もアリだったかもしれません。

おわりに

今回は演繹的アプローチでの自由進度学習でした。全ての理科授業をこの方式で、とは全く思いません。これまで理科教育で大切にされてきた「未知のもの」「不思議なもの」それを明らかにするために実験を行う「探究的な学び」も大切にしたいです。1年の中で1~2単元程度、このような形式で行い、ここで学んだスキルや感覚を別の単元に活用していく、そのようにに1年間の理科学習をデザインしていけると良いのではないか…というのが私なりの結論です。

そしていずれ、探究的な学びすら子どもたち自身の力で進めていけるのではないか、そんな風に思います。ここが次年度に向けてのテーマになりそうです。

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