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ディズニーランドのお子様ランチ

「親切、おもいやり」の内容項目で行われることの多い有名な題材ですが、今回は「規則の尊重」として扱ってみました。
授業を文字起こしする機会がありましたので、全てとはいきませんが授業の様子をそのままお伝えします。色々とご意見いただけたら嬉しいです。

「『ルールをやぶる』って、よいこと?悪いこと?」という問いを軸にして、ルールの「目的」や「背景」、「ルールは絶対」かなど、一歩踏み込んだ内容を扱っています。
実施学年は第3学年です。

授業の様子

先「『ルールをやぶる』って、よいこと?悪いこと?自分が思う方に手を挙げてください。」

子(全員が「悪いこと」に手を挙げる)
先「全員が悪いことだと思っているんですね。みんなの身の回りにはどんなルールがあるだろう?ちょっと考えてみよう。」
先「例えば、この学校にはどんなルールがある?」
子「ろうかを走っちゃいけない」
子「悪口をいってはいけない」
子「暴力をふるってはいけない」
先「なるほど、なるほど。」

先「次はちょっと難しいかも。この世の中、つまり社会にはどんなルールがある?」
子「人を殺してはいけない」
子「お金を騙し取ってはいけない」
子「悪い薬を使っちゃいけない」
先「すごいね。色々出ました。」

先「ではまた質問です。今まで出てきた『ルール』をやぶること。それはよいこと?悪いこと?」
子「悪い!」
子「悪いよ!」

(みんなが「悪い」という中、「国によってルールが違う」ということに気づいて悩んでいる子がいたので、「確かにそうだね!」と受け止めてから次に進みました。よく頭を働かせている子です。)
先「みんなはまだ働いてないけど、『仕事』にもルールがあるんだ。これを『マニュアル』っていったりします。聞いたことある人?」

子(半分くらいの子が手を挙げる)
先「物知りですね!…ところで、このお店なんのお店かわかる?」
子「セブンイレブン!」
先「セブンイレブンにもルール、マニュアルがあってね、ちょっと見てみようか。」
(一緒にセブンイレブンのマニュアルを見ました。トイレ掃除からコーヒーの出し方、レジの操作方法まで、本当に細かく記されています。)
先「じゃあこのお店はわかる?」
子「マクドナルド!」
子「お腹空いてきた!」
(マクドナルドの従業員マニュアルも一緒に見ました。経営理念から始まり、ハンバーガーの出し方や、接客、地震発生時の対応など、子ども達も感心しているようでした。)
先「今まで見てきたルール(マニュアル)を破るのはよいこと?悪いこと?」
子(ほぼ全員が「悪いこと」に手を挙げ、数名が悩んでいる様子。)
先「どうしてそう思うのか、ノートに書いて持ってきてみて。」

<子ども達のノートから>
・ルールをやぶると人にひがいをあたえてしまうかもしれないから。
・決められたルールは必ず守るべきだから。
・いろんな人にめいわくがかかるし、自分もこうかいすると思うから。
・じしんなどが起きたとき、マニュアルどおりに動いて命が助からない時はどうなの?

先「次はここです。ここはどこかな?」
子「ディズニーランド!」
子「行ってみたいな〜」
子「私行ったことある!」
先「東京ディズニーランドの「ワールドバザール」の一角に、「イーストサイド・カフェ」という人気レストランがありました。このカフェで本当にあったお話をしますね。」
ある日、この「イーストサイド・カフェ」に若い夫婦が2人で来店しました。

店員さんのことをディズニーでは「キャスト」と言います。
キャストさんはこの夫婦を2人用の席に案内して、注文をとりました。
そしたらその夫婦は、

って注文したんです。

子「えー!笑」
子「大人なのに??笑」
先「セブンイレブンやマクドナルドと一緒で、東京ディズニーランドにも仕事上のルールはあって、「お子様ランチは9歳未満」、つまり8歳の子供までしか注文できないことになっていたんだ。さて、自分が店員だったらどうする?」
子「『大変申し訳ありませんが…』って断るかなぁ」
先「実際どうしたか、見てみましょう。」

そうしたら、夫婦はとても複雑そうな、悲しそうな、そんな顔をするのです。
子「やっぱり丁寧に断ってる。」
子「そんなに悲しむかな?」
先「さすがに何か事情があるのかと、キャストさんも不思議に思ったみたいです。」
キャストさんが事情を聞いてみると、その夫婦はこう答えました。

先「キャストさんはこれを聞いて、どうしたと思う?ちょっとお隣と話してみて。」
子「お子様ランチを出してあげた!」
子「でも、ルールはルールだしなぁ…」
子「クビになっちゃったらどうしよう…」
先「では、続きを見てみましょう」

それを聞いたキャストさんは、何も言わずにその夫婦を、2人席から、家族3人でかけられるテーブルに案内し直しました。そしてそこに、小さい子ども用の椅子も持って来ました。そのテーブルにお子様ランチが届けられたのは言うまでもありません。

キャストさんはそう言って、テーブルを後にしました。

子「…。」
先「質問です。『ルールをやぶる』のは、「よいこと」ですか?「悪いこと」ですか?」

子「うーーーん!」
子「これ聞いちゃったらなぁ…」
先「今の自分の考えをノートに書いてみてください。」

「ルールはルール。守りなさい。」の先へ

 子ども達は相当悩んでいました。もちろん、それを狙った部分はあるのですが。学校で過ごしていると、なにかと「ルール」に縛られがちになります。特にここ数年はコロナの影響もあり、「ルール」「制限」「我慢」の多い学校生活が続いています。子ども達のノートにあった「決められたルールは必ず守るべき」と言う言葉には、大人として少し責任を感じてしまいました。当然ですが、ルールにはそれが定められたなんらかの理由があるわけです。「こういう理由があるから、このルールは守らなければならない」と考えられればよいのですが、「ルールはルールだから守る」では困ります。
今回の授業では「セブンイレブンやマクドナルドの成功を支えているマニュアル」や「ディズニーのキャストのマニュアル違反」から「ルールの背景」や「ルールは絶対か」などについて考えてもらいました。

 ちなみに子ども達は、ディズニーのキャストさんの今後をとても心配していました。「クビになってしまったのだろうか…」と言った具合です。結論から言うと、このキャストさんは「こんなよいことをした仲間がいた」と他のキャスト達から褒め称えられたそうです。件の夫婦からは感謝の手紙が届き、東京ディズニーランドはそれを社内報でキャスト全員に知らせるだけでなく、掲示板にその手紙を貼り出したそうです。ディズニーランドのキャストの行動規範は「お客様にハピネス(幸せ)を届ける」こと。ディズニーランドの芯にあるのは細かいマニュアルではなく、この理想だということですね。

(今回の記事は実際に発行した学級通信をプライバシーに配慮して一部修正し、作成いたしました。)


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