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非常時の「仮設の映画館」

24日(金)、これまで想田監督の『精神0』だけ発表されていた「仮設の映画館」は、その他にも参加作品が決まり、25日(土)つまり本日より開館する。マナーCMをつけての配信となるらしい。劇場で目にするマナーCNより、控えめで美しいデザイン。CMのナレーションはユーロスペースの岡崎さん。映画館の方からの「状況が改善されたら本物の映画館に足をお運びください」という呼びかけは、しっくりくる。手段として配信サービスを使っていても「映画館」であるという主張を感じる。

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そして、これはあくまで「仮設」だ。映画館に行きたくても行けない人のために、営業したくても営業できない映画館が一時的にオープンした、非常時の特別な映画館。非常時だからこそ、であって、平時にはオープンしない。その単純に思える線引きに、配給者としては少し不安がある。

そもそも配給者が取得する配給権の中で、劇場権と配信権は異なる。配給者はそれぞれの権利を行使することで収益を得る。権利の行使には段階があり、劇場上映、DVDレンタル/販売、配信、TV放映といった順序は状況によって変わるが、劇場上映が優先であることは変わらず、収益における割合も大きい。劇場上映は多くの場合、映画館と折半、配信は配信会社や中間業者の手数料を差し引いたものが収益となる。アメリカでは、Netflixなど配信サービスが隆盛を極めているが、日本では配信による収益はそこまで大きくない。しかし、配信をいつ始めるのか、気にする映画館は少なくない。配信することで、映画館に観に来なくなるのではないかという懸念からだ。映画館が配信に難色を示すと、配給者は何も言えない状況が続いている。ただ、Netflixオリジナル作品『アイリッシュマン』や『マリッジ・ストーリー』の劇場上映が好成績だったということを聞くと、その懸念も疑わしい。観客は映画館と配信に棲み分けられているし、どう観るかを使い分けているのではないだろうか。それでも、劇場上映と配信を同時に行なうことは滅多にない(『365日のシンプルライフ』では劇場公開初日に配信開始を実施できたが、後に続かないところをみると奇跡だったようだ)。

このように、劇場上映と配信の関係は、平時にはセンシティブな問題として、はっきりしないままだった。そして、このコロナ禍の非常時に、劇場上映と配信の距離が急に縮まったように見える「仮設の映画館」。映画館も配給者もお互いに支え合わなくてはいけない、非常時の今はいいのだ。これは配信サービスを使った「映画館」であるから。しかし、平時に戻ったとき、劇場上映と配信の問題に、配給者は向き合わなくてはならない。この非常時の間に、配給者が育ててこなかった配信を楽しむ新たな観客が育っているのかもしれないのだから。

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