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本読みの履歴書 9

何ヶ月かおきに更新される「本読みの履歴書」、森野は若い頃、どんな本を読んでいたかという記録(どちらかというと記憶)でありまして、前回はこちらです。

今回は中学校時代を中心としたマンガ編。「週マ」「りぼん」「別マ」の時代。著者の皆様の敬称は略させていただきます。
あと、マンガのネタバレがガンガン出ます。どれも今では古典なのでまあ良いかなと思うんですが、これから読もうと楽しみにしていらっしゃる方は後で読んでからいらして下さい。通し番号に意味はありません。最初から数えるために付けているだけ。


51.池田理代子 「ベルサイユのばら」 週刊マーガレット

連載第一回から読んでおりました。こんな大作になるとは思ってなかったなあ。宝塚でやってから特に有名になりましたね。

かなり史実に忠実に描いてあるので世界史の勉強としても大変役立ちました。なにせ中学時代に連載ですべて読んでおりましたからね。高校になって世界史でフランス革命のところが出ると異常によくできたりして。しかもそれが自分だけでなく、読んでいた友だちみんなそうだったのはご愛敬。

その中で、「オスカル様」という、そこだけ完全にフィクションの人物設定がこの物語を成功させたんじゃないでしょうか。このキャラはすごいよ。まず「男装の麗人」という点がタカラヅカならずとも少女のハートをつかみます。連載当時ってまだ70年代で、女性が社会で活躍するのは稀で性差別が当たり前というか、社会が全力で「女の人のためを思って」善意で抑圧にかかっていた時代ですからね。本当は女性だけれど男性の格好をして世の中で男性以上に活躍する、しかも高い地位の貴族、さらにあとになって現実の社会を見聞きして衝撃を受け市民側に寝返るという、少女にとって夢みたいなスーパーヒーローというかヒロインというか、そういうオスカル様をゼロから創造して実際の歴史の中に埋め込んだところが池田理代子のすごさだと思います。


52.山岸涼子  「アラベスク」 りぼん

ユーリ・ミロノフという、これまたカリスマ的でストイックなダンサーを創造した作品。これは誰かモデルがいたんだろうか? 山岸涼子はアラベスクの後、一時、怪奇もの、その後は精神分析というか、アダルトチルドレンでボーダーラインな主人公を描き続けていたのですが、そのへんは好きでないので読んでいません。その後、「ダヴィンチ」誌で「テレプシコーラ(舞姫)」を連載して、おおまたバレエに回帰したのねと思いました。あ、日出処の天子はアラベスクの後ですね。あれも傑作。

自分が小学生時代、一時期バレリーナだったので、バレエに関するものは好きです。有吉京子の「SWAN」も読みました。絵はあっちの方が華麗。だけど初期経験という意味で、やっぱり「アラベスク」です。一部もいいけど、第二部が特に。

だってさー、当時はロシアがまだソヴィエト連邦で、中に出てきたエドゥアルド・ルキン(この人好きだった!!)が古典主義のロシアバレエに絶望して亡命するんですよ。そうするとその時に一緒にいたバレエ団員全員がもう大変なことになってしまって。当局に取り調べられたりとか。

あと、最後の方で出てくる重要人物のカリン・ルービツも好きだったなあ。東ドイツから流れてきたレッスン・ピアニストで、いろいろすーごく歪んでて、でも単なる悪役じゃないんですよ。どうしてこんな展開を思いつくかなあ。山岸先生天才。

でね、いま読むともっとせつないのは、主人公のノンナは「キエフ」の出身なんです。ウクライナ(当時はソヴィエト連邦)の少女が超名門のレニングラード・バレエ団(現在のマリインスキー・バレエ。ロシアのサンクトペテルブルグにある)に見いだされ、艱難を乗り越え自分にも勝ってプリマになっていく、という話なんですが、ねえ。ううう。


53.一条ゆかり 「女性志願」 りぼん

すんごいマイナーな選択だけど。当時の中編のひとつ。

一条ゆかりと言ったら今じゃ「有閑倶楽部」以降の作品がメインですが、私のマンガの師匠(に勝手にしていた)ころはラブコメディ全盛で、そういう作品ばっかでした。そしてそのころの方が微妙に好きだったりするのですな。「恋はおてやわらかに」とかね。

「女性志願」は「りぼん」で6ヶ月連続毎月一条ゆかり読み切りって企画があって(鬼のようだ。一条先生はよく身体を壊さなかったものだ)、それが楽しみで楽しみで。その第1作でした。

外見がパッとしない地味で自己肯定感の低い主人公が、いろいろあって自分に自信をつけていく、みたいな内容でしたが、自分自身に投影しやすかったのじゃないでしょうか。

「こいきな奴ら」なんかも真似してよくマンガ描いてましたね。そうそう、いつぞや角田光代のエッセイを読んでいたら(角田先生も多分同世代で少女マンガに詳しい)いきなり「笑ってクイーンベル」が出てきたので涙を流して首をぶんぶん縦に振りました。これもよかったし、別の時に本誌じゃなくて別冊でついていた「9月のポピィ」も好きでしたねえ。でもこれ、プロットがその4ヶ月くらい前に掲載された大矢ちきの「キャンディとチョコボンボン」にうりふたつでしたが、でもねーそれでも好きだったな。


54.槇村さとる 「ディスコ・ベイビー」 別冊マーガレット

これまた槇村さとるとしては超マイナー作品を選択。

一条ゆかりと一緒で、人間関係が濃密に描かれ、内容が深くなった(と思う)後期の作品より、脳天気なラブ・コメディ時代が好きです。最初からものすごい暗い、よく商業誌に載ったなあみたいなのもありますけどね(「ガラスの墓標」とか)。

「ディスコ・ベイビー」はガチガチの眼鏡優等生が実は「ナウでいけてる校則破りのディスコ少女」だった、というテンポのよいラブロマンス。この中で出てきた脇役の「志摩くん」という新聞部の部長がすっごく好きで、ながらくあこがれでした。なお志摩くんは本当に脇役で、全然恋愛には絡みません。


55.大矢ちき 「おじゃまさんリュリュ」 りぼん

大矢ちきは、もう、デビュー第二作の「ひとめで恋に落ちたなら」でズガーンとショックを受けました。そのリズム感、絵の構図、どれをとっても非常に新しく、すごい新人が出てきたと驚いたものです。

ストーリーは、初期のものは本当にラブ・コメディなんですが、その絵が! なんというか、あれだけ浴びるようにマンガを読んでいると、子どもなりにどれが上手いか、どれがすごいか、わかるようになってくるんですね。この作品は(紙面でミュージカルだよ!)と驚いたもの。

「キャンディとチョコボンボン」「恋のシュガーワイン」から「いまあじゅ」「雪割草」へと、後期になるほどお話がシリアスになっていきましたが、カラーもすさまじく美しかった。

そして「回転木馬」でストーリーマンガとしては筆を断たれ、以降はイラストレーターとしてご活躍されました。今はどうされているのか?
お名前は「おおやちき」とひらがな表記になってますね。



あとはねー、くらもちふさこは定番だし、まだ「カラスの仮面」を始める前の美内すずえも読んでたし、山田ミネコとか。有吉京子のデビュー作で、ウ○チを材料に実験だか開発だかする理科少女のお話も面白かったなあ。


この時代の定番で実は読んでいないのは「キャンディ・キャンディ」と「生徒諸君」。
講談社系(「なかよし」や「少女フレンド」)はなぜか読みませんでしたね。なぜだろう。


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