田中さんとわたし
わたしは以前マンションの話をnoteに書いたりもしているんですが、今回の田中さんもマンションの話です。
マンションの雰囲気はこちらの二つのnoteから感じてくださればなんとなくイメージしやすいかなと思います。
わたしの10年ほど住んでいるこのマンションですが、部屋によって間取りが違っているので家族で住んでいる方や単身の方もいらっしゃいます。
わたしの隣の2DKの部屋ですが、ずっと在宅勤務のお姉さんが1人で住んでいて、1日中在宅でもとても静かで、お互いに配慮をしながら暮らしていました。
雰囲気は女優の木村多江さん系で、ごく稀に革ジャンを着る意外なところが好きでした。
そんな木村多江風のお姉さんが6年程経ったある日音も立てずに引っ越したのだ。
わたしショック大。。。
久々に感じたこの衝撃。引っ越しショック。。。結構数日引きずっていました。
隣人くじに外れると生活に支障が出るので、静かな隣人は本当に大切にしたい存在です・・・。特にわたしは家にいるのが好きで、家の時間を大切にしています。
あっという間に隣にハウスクリーニングが入って、次の入居者を迎える準備に。
はぁ・・・辛い。2DKなんだからさ、絶対2人入居の可能性高い・・・と夜な夜な考えると涙が溢れ出します。
入居が決まるまで鬱状態が続きました。
わりとすぐのある日。
怖そうな人が隣に出入りしてるのを発見。。。
後ろ姿しか見てないし、人を後ろ姿で判断しちゃいけないと思うけど悪いことをしてそう・・。隣人くじの外れの予感。
わたしはショックを受けながら毎日を過ごしていました。そんなわたしの気持ちとは裏腹に怖い人はとても静かだったのだ。あれれ・・・?
それと同時期にエントランスや廊下で、何故かお婆さんを見るようになったのだ。
ふわ〜と漂うように徘徊している。音も立てずにゆらゆらと、まるでくらげのようにマンションを漂っているのだ。
え・・・このマンションにお婆さんが漂っているなんて10年住んでいて初めて見る光景。でも漂っているということは住人なのかな?
だってオートロックの中で揺らめいているんですもん。
誰かのお母さんかお婆ちゃんが遊びにきているのかな?にしては毎日ゆらゆらと漂っている・・・パジャマのような衣装で。
わたしはとても鼻がいい。漂っている姿がなくても少し前に漂っていたなという残り香がふわりと香るのだ。漂い率の高さよ!
数週間が経過したある日、出かける為部屋のドアを開けたら隣のドアも同時に開いたのだ!「あ、こんにちは」と言うと、あのくらげのお婆さんが!!!!
「隣に引っ越してきました田中です、よろしくお願いします」
田中さん・・・。わたしの頭は高速回転した。このマンションは多分高齢の方の一人暮らしでは入居審査は通らないはずだから、あの怖いお兄さん(息子)が手続きをして田中さんが住んでいるのだなと察した。(ダメなはず)
田中さんは74歳だ。
田中さんが引っ越してきてからよく警察官とセコムが出入りするようになった。
どうやら鍵を持たずに外に出て迷子になっているようで、警察官が送り届けている様子だった。息子さんは知っているのだろうか。
上の階に住んでいる犬友によると、「住んでいない階にも浮遊している、音も立てずに」というのだ!まさか!と思ったが、わたしはエレベーターに乗り込む後ろ姿を見たのだ。間違いなく全部の階に浮遊している。
上の方の階に住むお金が余って仕方ない会社を沢山持っている夫婦(70代子なし犬あり)のママが「田中さんが浮遊していてわたし嫌なのよね!」とわたしに言うので、「でも生活音静かですよ〜」と言っておいた。
でも警察の出入りが多いので少し目立つ・・・何故か田中さんの悪口を言われるたびにわたしがフォローをしている。
田中さんの噂が瞬く間に広がって、マンションの管理会社にママがクレームを入れてしまったりと、わたしのフォーローも追いつかなくなっていた。
ある日の午後、住んでいる地域で高齢者を騙すような事件が多発していると交通安全課の方が一軒一軒家を回って注意していた。「うちの隣が高齢の・・・」と言いかけたが、こういうのは言うものじゃないのかなと思って口をギュッとした。
「この辺に詐欺が多発してるから、知らない人が来てもむやみにドアを開けない方がいいですよ」と浮遊している本人に伝えた。
そして翌日また田中さんに会った。
「昨日知らない子に、詐欺が多いから気をつけるように言われた」とわたしに言ってきた!田中さんはわたしを忘れてるのだ・・・何度も自己紹介するのはそのせいだな・・・。待てよ、浮遊じゃなくてこれは徘徊ということになる。。
こんなマンションに1人で住むよりも、安全な高齢者マンションの方がいいと思うと大きなお世話だけど思っている。
田中さんはすごくお金持ちなのだ。元々の持ち家を処分するかどうかで今悩んでいるところだそう。
そしてたまに息子の部下が何か運んできたり、車で病院に送迎したりしている。つまり息子さんはきっとヤクザだ。色々考えさせられる。少しづつ明らかになる田中さんの素顔。。。
田中さんはいつも同じ表情で、遠くを見ている。認知症の方の表情に近い。
笑うこともなければ表情を変えることもない。ずっと同じ。
そうか、田中さんは少し認知症なんだなとわかってきて切なくなっていた。
毎日挨拶する時は「田中さん!こんにちは隣に住んでるものです!」と言うようにしている。毎回忘れても隣のと言えば多少安心するかもしれないもんね!
ある時田中さんの飼っている猫が亡くなった。
丁度箱に入った猫さんを区役所のおじさんに渡しているのを遠くからわたしは見たのだ。
田中さんはよくベランダにペット用のベッドを天気がいい日に干していたので、それなりに可愛がっていたんだろうなと思う。
翌日田中さんに会ったので、聞いてみたら突然田中さんが泣いたのだ!「猫がいなくて悲しい」と。切ない。。。。。認知症の田中さんにも感情はあるんだ。。
でもわたしは換気扇から昼夜問わず泣いている犬がいるのも知っていた。
田中さんは犬も飼っていた。「大きなチワワ」と紹介されました。
14歳の大きなチワワは14年間一度も外に出たことがないそうだ!お散歩も?と聞くとそうだと田中さんは言っていた。
わたしの予想では大きなチワワも多分認知症なのだ。。。ずっと泣いていて夜泣きもしている。認知症の2人は寄り添って生きているのかなぁ、ちゃんとお世話できているのかな?と余計な心配をしてします。
つい先日初めてわたしの飼っているチワワを散歩させようとした時に田中さんがいたので、紹介しようと思って「うちのおばあちゃんチワワですよ」と犬の手を持って振った。表情はいつもと変わらない田中さんだが、「小さいのね〜」と。
うちのおばあちゃんチワワのことも忘れちゃうかな?
10分間の散歩を終えて帰ってきたら、マンションの前で田中さんが満遍の笑顔で手を振って「おかえりー!」と言うのだ!!見たことのない顔!!チワワを通じて田中さんの笑顔が見れた日でした。わたしもチワワの手を持ってまた振りながら「田中さんただいまー」と言った。
アニマルセラピーだと思う。
おばあちゃんチワワの散歩をすると100%人間のおばあちゃんに話しかけられるのです。おばあちゃんがおばあちゃんを呼ぶのかな?
わたしは毎日1つでも良いことをしよう!という取り組みを勝手にしている。それはどんなことでもよくて、なんか良いことした〜って感じのことをすればいいと思っている。
散歩中におばあちゃんに話しかけられたら、必ず一言二言話すようにして良いことをしたことにしている。「わたしたち良いことしたね」と愛犬を抱きしめるのだ。
そうやって毎日を楽しく過ごしています。
田中さんのこともよろしくね。
アデュー!