ジョー・バイデンは二度笑う――ナンシー・ペロシ氏の訪台とデザインされた戦争という想像
エドワード・ルトワック氏はワシントンD.C.の大手シンクタンク<戦略国際問題研究所>の上級アドバイザー。
この研究所は米陸軍や、米国国家安全保障グループとつながりが深いと言われている。
彼のこのツイートに注目したい。
ロシアによって行われたウクライナへの侵攻については「短期決戦で完了するという事前情報があった」とはよく聞く言説である。このツイートではその情報の出どころについて指摘しているようである。
・CIA(中央情報局)
・ドイツ(資源依存度を考えると制裁なんぞ出来っこないはずだった――プーチンに青信号を与えていた国)
・FSB(ロシア連邦保安局)
この三者が同じ情報を持っていた、と指摘している。
それであわれな<元>FSB構成員が150人も生まれてしまった。彼らは「プーチン氏にとり耳触りの良い情報だけを報告していた」という情報局員としてもっとも屈辱的な汚名を着せられている。
ところで世界中の情報局は互いに諜報活動をするゆえに、ゆるやかに情報を共有するという状況が生まれる、と考えられる(素人には検証のしようもないことだが)。しかしながら、意図的に情報を共有することもあるらしい。例えば最近ではFBIとMI5の共同声明を出している。
MI5とは、英国の<防諜>機関である。
話がそれた。
ウクライナ早期陥落という<情報>についてだ。この<情報>がロシアのウクライナ侵攻を実現させたという前提に立ってみると、プーチン大統領にとっては、これが<猛毒>だったということだ。
なぜなら、いまやロシアは世界中から孤立している。更にもっとひどいことに、7月21日にMI6の局長が、ロシアによるウクライナ侵攻の余力は残りわずかだと言った。MI6とは英国の<諜報>機関である。
ルトワック氏が指摘している「FSBは罰されたが、CIAは罰されていない」の点は、一体何だろうか。
誤情報を握ったCIAにペナルティがないのは、実は「正常に機能していた」ということだろうか。
この大手シンクタンクのシニアアドバイザーのツイートから、ナンシー・ペロシ氏訪台について考えてみたい。
話はさかのぼって2021年6月、バイデン大統領は同盟国との関係再構築を狙って、欧州を歴訪していた。
ここでは「記事を開いて読んでくれ」とは言わない。もちろん時間が許すのであれば、じっくりとご確認をいただければと思う。いったん出来事のアウトラインを知るため、ヘッドラインをかけあしで見てみる。それだけで、いかに中国とロシアをにらみ続けていたのか、ということが分かるだろう。
6月10日、まずは英国でジョンソン首相と新大西洋憲章の合意を行った。日経のヘッドラインは「中ロ対抗へ「新大西洋憲章」、米英が80年ぶり刷新」である。記事に述べられている通り、大西洋憲章とはルーズベルトとチャーチルが大戦中にまとめたもので、それの2021年度版ということになる。▼
6月11日から13日はそのままコーンウォールにてG7サミットに出席。JETROの記事のヘッドラインには「新型コロナと気候変動と中国への対応」とある。▼
6月15日に、EUのミシェル首脳と対談。朝日新聞デジタルのヘッドラインには「対ロシア、「ハイレベル」で協調へ」▼
6月16日は、ジュネーブでプーチン大統領と会談。対中包囲網にロシアが加われば、そこで話は終わる。が、そんな簡単なものじゃない。▼
6月25日から30日はスペインでNATO首脳会合に参加。「中ロを名指しで批判」の文字が躍る。▼
ロシアのみならず中国を批判したことに驚く。
「NATOが、中国を?」今はなきワルシャワ条約機構だけが、NATO永遠のライバルだと思い込んでいた世代全員がつばを飲む。
要するにバイデン大統領が、いかに中ロを欧米で包囲していくのか、というテーマで外交を進めていたのか、ということが言いたかった。
しかし、この後はたどたどしいアフガン撤退である。
欧州歴訪のことはどこへやら。一時騒然となり、それで持ちきりとなったのは皆様の記憶に新しいかと思う。それを横目にプーチン大統領と習近平国家主席が何を考えていたのか分からない。
東京五輪において、多少外交上のつばぜり合いを演じたものの、大きな動きはなかった。
米国は中露と敵対している。そのことだけは確かだった。
ところで、なぜ敵対しているのかという話はここではよそう。それはそれで長くなる。上記の記事で紹介した通り、敵対している事実には違いない。そして、付け加えるなら「ロシアとはまだ対話する余地があった」のだ。この時点では。
そんな中、事態は急転する。
続いて翌10月には中露の動きがあった。
明らかに太平洋のむこうをにらんだ中ロ合同の軍事演習。しかも日本のぐるりでの演習だ。(にもかかわらず当時あまり日本で話題にならなかった)
「中ロ、日本取り巻き軍事演習 結束誇示、対米けん制も―津軽、大隅両海峡通過」
これは西側陣営の心をくもらせる出来事にちがいなく「いよいよ中露同盟に手が付けられなくなってきたな」と大きな印象を与えた。
その後、ウクライナの国境線にロシア軍が集結しているという報道があった。そうして世間は一気に不穏な空気になっていったのだった。
ご存じの通り2月24日を迎えることになる。
さて。
かように超核大国ロシアと軍事費No.2中国の二大国が手を組んで、米国と軍事的に対抗している。相手は最凶の同盟だ。
どのようにしてこれに打ち勝つことが出来るだろうか考えてみよう。
渡り合うにはいったいどうすればいい?
現実に起きていることの中に、答えは出ているかもしれない。
つまり片方をおびき寄せて叩きつぶし、残りの片方は孤立するから、後でじっくりとつぶせばいい。
例えばこんな挑発をしておびき出すのだ。
軍事的緩衝地帯のはずであったウクライナで、合同軍事演習を行って、怒ったプーチン大統領に向かって知らん顔で「レッドラインなどない」とうそぶいて面目をつぶす。
その後「ウクライナは二日で陥落する」と言った甘いブラフを諜報機関に織り交ぜる。
<猛毒>のレシピ。
僕は想像力が逞しすぎるだろうか。
そう。
これは想像の中のシナリオに過ぎない。
「なるほど、さもありなん」と面白がるのが関の山。
「デザイン」したのか「偶然」か、なんていうことは、大物が口を滑らせたりしない限りは分からないのだから。
余談:口を滑らせたボルトン氏の記事:「外国のクーデター計画に関与した経験をテレビで明かす」というまずいヘッドライン▼
余談が過ぎた。でも、大国政治の裏側ではこんなことが起きているという良い事例だ。
さて、孤立したもう片方の国。すなわち中国について考えよう。今、最大の同盟国ロシアという大駒を落としている大国だ。
出来るだけ大人しく、静かにしていたいと考えるのが自然じゃなかろうか。
ただし。
国民党政権の亡命先である台湾と、世界一の大国である米国が、電撃的に国交を結ぶといったような出来事――共産党政権の存在理由をゆるがせにするような出来事が起こらない限りは、だ。
ナンシー・ペロシという<猛毒>を喉元につきつけて「チェックメイト」と笑うバイデン大統領の、したたかでダーティな笑顔が浮かぶ。
またもや想像力が逞しすぎる?
まったくその通りだ。検証のしようもないことに、だらだらと突き合わせてしまって申し訳がない。ただの趣味である。
最後に。
もしペロシ氏訪台があったとしたら。
習主席が米国との武力衝突を選ぶのか、武力以外の衝突を選ぶのか、はたまたメンツをつぶされたまま衝突をしないという選択をするのか、一体どうするだろう。
米国にそこまでさせた場合、一つ言えることがあると思う。
米国からみた中国はとっくに<つめろ>にいる――ように見えているのだろう。
どうだろうか?
他人事じゃない。
その詰将棋がはじまったが最後、中国の動き方次第で日本の持ち駒もがっつり落とされることになる。
台湾有事は日本有事の認識はすでに国内に浸透している通りである。
ナンシー・ペロシ氏訪台は、まだわからない。
南シナ海では今、ロナルド・レーガンが台湾をにらんでいる。週明け何があってもおかしくない。
この記事では、バイデン大統領を悪魔化したいわけではない。米国の既得権益にチャレンジしてくる国を、きちんと敬遠するのが米政府の仕事だ。最凶の同盟相手によくさばいていると思う。
また、逆に中露を悪魔化したいわけでもない。
自国に出来るだけ利益を引っ張るのが彼らの仕事である上、世界一の大国に黙って叩きのめされているわけにいくまい。
大国政治の規模は大きいが、大きいだけで人の営みには違いない。
「なんでそうなるんだ?」という疑問を出来るだけ解決したいという気持ちで、日々国際関係の記事を読んでいると、善悪論はあまり役に立たない。どちらにももっともらしい都合がある。
ただそこから日本の利益になる立ち回りについて考えるくらいはしたい。
台湾有事があれば、痛みをともないつつ欧米と協調路線をとるしかない。さもなくば国際社会で孤立するだけだ。
そして、いかにももっともらしく書いたものの、全部僕が恣意的につなぎ合わせて作った想像に過ぎない。
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