見出し画像

驚きのオマージュミステリー『8つの完璧な殺人』

紀伊國屋書店ウェブストア スタッフのNと申します。
このたび、このアカウントの更新を担当させていただくことになりました!
念願だったnoteアカウントがようやく開設でき、張り切っております。
空回りしないよう頑張りますので、皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。

ここで、少しばかり自己紹介をさせていただきますと…
★普段よく読むのはミステリーです。
★でも、ファンタジーもSFも好きです。
★科学系の読み物やノンフィクションなんかも気になります!
★むしろ本全般が好きです!雑食だよね、とよく言われます。
★積読が無限に増えてゆきます…

ということで、あまりジャンルにとらわれず、いろいろな本をご紹介できればと思っております。
同好の士の方、ぜひぜひフォローをお願いいたします!


それでは早速、今回のおすすめ本をご紹介していきます。
本編の内容に踏み込んでいますのでご注意ください!「前情報なしで読みたい」という方は、ウェブストアでもご購入いただけますので、どうぞ先に読んでみてくださいね。

8つの完璧な殺人
著:ピーター・スワンソン 訳:務台夏子
出版社:東京創元社


『そしてミランダを殺す』で、その年のミステリーランキング上位にランクインし、日本でも名前を知られるようになったピーター・スワンソン。邦訳としては最新作の『8つの完璧な殺人』が、2023年8月に東京創元社から発売されました。
今回の作品も、ミステリー好きの間では話題になりましたね。「このミステリーがすごい!」をはじめ、今年のミステリーランキングにもしっかり入っていました。
作品中では “犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な殺人” として8つのミステリー小説が紹介されており、かつこの作品自体が名作ミステリーのオマージュになっています。ミステリー好きなら絶対に読みたくなる、粋な仕掛けですよね!
ストーリーやおすすめポイントなど、詳しくご紹介いたします。

◆あらすじとおすすめポイント

ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは10年前、犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な“完璧な殺人”が登場する8作を選んで、店のブログにリストを掲載した。『赤い館の秘密』、『ABC殺人事件』、『見知らぬ乗客』……。捜査官によると、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているという。犯人は彼のリストに従っているのか? ミステリーへの愛がふんだんに込められた、謎と企みに満ちた傑作!

出版社内容情報より

物語は、ミステリー専門書店の店主であるマルコム・カーショーの回想という形で進んでいきます。

ひどい雪の晩、FBI捜査官のグウェン・マルヴィが店を訪ねてきます。最近続いている不審死が、マルコムが昔作成した「完璧なる殺人8選」のリストに沿って行われた連続殺人事件ではないか、という疑いをもち捜査をしているとのこと。自分は容疑者なのか、と身構えるマルコムでしたが、最終的に捜査に協力することになります。
一連の不審死は、本当にマルコムのリストに沿った殺人なのか?それともマルヴィ捜査官の思い過ごし?
思いがけずコンビを組むことになった2人は真相にたどり着くのか。一緒に推理してみてください。

また、要所要所で差し挟まれる、マルコムの妻に関する回想も気になります。妻はすでに亡くなっているようなのですが、マルコムはどうやらその死を受け入れられていない様子。
過去に何があったのか。そして、それは物語にどのように関わってくるのか。この作品を構成する、もう1つの謎となっています。

さらに、主人公が書店の店主ということもあり、作中に新旧たくさんのミステリー作品が登場するのもポイント。知っている作品とふいに出会えると、なぜか嬉しいですよね。初めて出会う作品は、次の読書リストに入れてみるのもいいかもしれません。
作品のどこがオマージュになっているのか、という視点でメタ的な読み方もできますよ。
ミステリー好きこそ、二重三重に楽しめる作品になっています!


◆「完璧なる殺人8選」リスト

では、この作品を彩る「完璧なる殺人8選」のリストを見ていきましょう。リストアップされている作品はこちら↓

『赤い館の秘密』(1922年)A・A・ミルン
『殺意』(1931年)フランシス・アイルズ
『ABC殺人事件』(1936年)アガサ・クリスティ
『殺人保険』(1943年)ジェイムズ・M・ケイン
『見知らぬ乗客』(1950年)パトリシア・ハイスミス
『溺殺者』(1963年)ジョン・D・マクドナルド
『死の罠』(1978年)アイラ・レヴィン
『シークレット・ヒストリー』(1992年)ドナ・タート

せっかくならすべての作品に直接当たりたい、と思ったのですが、絶版になっているものや邦訳されていないものもあり断念。。
でも、可能な限りご紹介していきます!
ネタバレになっておりますので、未読の方はご注意ください!!


◆各作品のご紹介

『赤い館の秘密』

『くまのプーさん』シリーズで有名なA・A・ミルンですが、ミステリー作品も書いているんですね!
地元の名士の屋敷「赤い館」で殺人事件が。ちょうど屋敷を訪ねてきたギリンガムは、屋敷に滞在中だった友人のベヴァリーを助手に、捜査を始めます。
なんだか浮世離れしているけれども、人とは違う目の付け所で探偵役を務めるギリンガムと、彼を慕うベヴァリーの関係性が良い!作中で本人たちも言っているように、ホームズとワトソンのような息の合ったコンビなんです。
殺人事件という深刻な事態ではあるのですが、若い2人が赤い館の中を探索するのが冒険物語のようで、後味も爽やかです。

『殺意』

しばらくお品切れとなっておりましたが、なんと今年復刊されました!現在はウェブストアでもご注文いただけます。
物語は、田舎で医者をやっているビクリーが、妻の殺害を決心する場面から始まります。家柄と金のために結婚した年上の妻は高慢で、ビクリーはいつも尻に敷かれているのですが、ビクリーの方も女癖が悪く、とても清廉潔白とは言えない人物。さらには、2人を取り巻く関係者たちも、非常に人間らしく難のある人物だらけ。
誰にも肩入れせず、ちょっと悪趣味ですが、右往左往する登場人物たちを「高みの見物」といった感じで眺めておりました。救いようのないストーリーではあるのですが、いい意味で他人事として読めたおかげか、それほど後味の悪さは感じない作品でした。

『ABC殺人事件』

Aで始まる地名をもつ土地ではAのイニシャルの人物が、Bで始まる地名をもつ土地ではBのイニシャルの人物が…という殺人事件が発生。現場には「ABC鉄道案内」が残されています。さらに、名探偵エルキュール・ポアロのもとには、予告状ともとれるような手紙が「ABC」の署名で届いていて…。
この事件は狂人による無差別連続殺人なのか、それとも…?
今回の『8つの完璧な殺人』に限らず、さまざまなミステリー作品に影響を与えてきたアガサ・クリスティの傑作!オマージュ作品も多いです。
昔読んだことがあるという方も、この機会にもう1度手に取ってみてはいかがでしょうか。

『殺人保険』

あいにく邦訳版は絶版になっており、私自身も未読の作品です。
『8つの完璧な殺人』の作中で触れられているあらすじによると、保険外交員の男が不倫相手の女と共謀し、彼女の夫を事故に見せかけて殺害する計画を立てる、というストーリーのようですね。
英語版はございますので、気になる方はぜひ!

また、『深夜の告白』という邦題で映画もございます。脚本がレイモンド・チャンドラーというのも注目。私も今度観てみる予定です!
⇒ https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-10-4933672255095

『見知らぬ乗客』

建築家として活躍中のガイは、列車内で出会ったブルーノに交換殺人を持ち掛けられます。はじめは取り合わず、ブルーノに嫌悪感を抱くガイでしたが、しつこく付きまとうブルーノを無視できず、次第に絡めとられていきます。
交換殺人計画によって不思議な絆を結んでしまった2人が、愛憎入り混じった感情を互いに抱きながら、ともに転落していく描写がなんとも言えず恐ろしい。漂う倦怠感、不吉な結末を予感させる何かが、全編を通して付き纏っているのがむしろ魅力となっている作品だと思います。

ヒッチコックの監督で映画化もされていますので、こちらもぜひ!
⇒ https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-10-4548967236422

『溺殺者』

邦訳されていない作品で、今回は読むことができませんでした。
こちらも『8つの完璧な殺人』の中で紹介されているあらすじによると、事故に見せかけて標的を溺死させるトリックが用いられているようです。
…気になる!!いつか原作に挑戦してみたいと思います!

『死の罠』

こちらはリスト中で唯一の戯曲作品で、映画化もされています。
映画のDVDが品切れとなっていて困っていたのですが、なんと「持ってるよー」というスタッフが!!早速貸してもらい、観てみました。
劇作家のシドニーは、発表する作品がことごとく酷評され崖っぷち。そんなある日、教え子だというクリフから脚本が送られてきます。一読してその才能に嫉妬したシドニーは、クリフを殺害して脚本を奪う計画を妻とともに立てるのですが…思いもかけない展開が次々に訪れ、最後まで退屈させない仕掛けが見事でした。
原作はこちらです↓

『シークレット・ヒストリー』

『黙約』というタイトルで邦訳版が出ています。こちらも絶版でしたが、何とか手に入れて読んでみました。
大学でギリシア語を学ぶクラスの学生たちが、仲間の学生を殺害した事実が、物語の冒頭で示されます。最初から犯人が分かっているなんてつまらない、とお思いですか?いやいや、この作品の肝は犯人たちの心理描写なんです!
仲の良い友人を殺害するに至るまでの葛藤。殺害後に襲ってくる罪の意識と、犯罪が露呈する恐怖によって、次第に破綻していく日常。寝ても覚めても悪夢の中、といった描写があまりにリアルで、読み終わってから数日は自分が追いつめられる様子を夢に見るほどでした。

原作の英語版はこちらです↓
2部構成の大長編なので、なかなか骨が折れますが、気になる方はぜひ挑戦してみてください。

番外編

リストには含まれていないものの、作中で触れられている作品が他にもたくさん!すべては紹介しきれないのですが、一部を載せておきますね。読書リストとしてご活用いただければと思います。

◆最後に

いかがでしたか?知っている作品は出てきましたか?だんだん読んでみたくなってきたのではないでしょうか!
『8つの完璧な殺人』本編を読んだ後に、リストに挙げられている作品を読んでみるのはもちろん、作中に出てくる作品から先に…という読み方もおすすめです。物語の語り手・マルコムにより深く共感できることと思います。
読書の幅がどんどん広がる楽しい1冊です。年末年始休暇のおともに、あなたの読書リストに加えていただけましたら嬉しいです!