見出し画像

山のルートに必要なリスク中心思考を身に着ける

■ リスク中心思考を身に着ける

フリークライミングでも、クライマーとなるのに大事なことは、

リスク中心思考を身に着ける

ことです。

これは、VUCA時代の生き方と同じです。

■ リスク中心思考の事例: 

先にアルパインクライミング(冬期登攀のこと)の解説を行います。

アルパインルートは、山+登攀、です。

したがって、当然、一般登山はすっかり終わっている人が行うもの、です。

ジムクライマーは、ムーブができても、一般登山を行っていないので、自分で一般登山をスキルアップする必要があります。

■ アルパイン入門ルートのリスク分解事例

例:阿弥陀北稜

1)どのような性格のルートか?知る

阿弥陀北稜と言えば、冬季登攀入門ルート。 雪山+登攀。

つまり、登攀は簡単で、環境だけが本格的、ということです。

ちなみに登攀とは、ムーブ+ロープワークのこと、です。ムーブだけを登攀だと思っている初心者が多いですが、ロープワークには1年くらいはスキル習得にかかります。

入門にルートでは、基本的に高度な登攀は求められません。

求められるのは、

”どの冬期登攀ルートに挑むにしても、共通項となる、前提となっている、リスクがマスクできるか?どうか?”

が問われます。無い場合、遭難します。阿弥陀北稜遭難でググるとたくさんの事例が出てくるはずです。ここで遭難するような人は資格がない、ということです。

2)リスクを想像する

普通にシミュレーションするだけです。

注意:自己顕示欲のツールになると、このリスクを想像するプロセスが抜け落ちます。

注意:山岳部などで、誰かに丸投げ、となっても、このプロセスが抜け落ちます。

阿弥陀北稜を例にとると?

1)天候 …天気が悪くなったら?と想像

2)寒冷 …寒すぎたら?と想像

3)雪崩 …雪崩はどこで起こる?と想像

4)道迷い…下りはどう帰るか?と想像

です。この4つがマスクできていれば、そうそう遭難しません。時間も短く登攀も簡単なレベルのルートだからです。これら4つのリスクは、初級の雪山でも、当然存在するリスクです。

阿弥陀北稜の遭難事例は、大体この4つとも全然、考慮しておらず、ガイドや指導者に丸投げ、って事例が多いです。

3)思考停止、を避ける

これは日本人だけのリスクかも?海外であまり見ないメンタリティのような気がします。

誰が登るのか?俺、であり、私、ですので、いくら他の人が楽勝、と言ったところで、自分にとって楽勝かどうか?は別の話。

誰かと比較して、「○○さんに登れたから、俺も」とかなしです。私が登ったルートで、人が死んでいるルートは、たくさんあります。40代のおばちゃん入門者が登れたからって、俺も…当然登れるはず、と、あまりに準備不足で挑む人が多いので、大半の記録は消しました。

100歩譲って、楽勝自慢をしたかったら、もっと簡単な別のルートを選んでも、無知な一般市民は、すごいねーと言ってくれますよ(笑)。例えば、ガイド登山のエベレストとか。現代の高所遠足、と言われています。

4)実際にリスクをマスクする具体的な行動をとる

1)天候…八ヶ岳の悪天候は南岸低気圧です。来たら行かない。天候リスクは、その山域に固有のものなので、固有のリスクをマスクするには、丸一年くらいは、その山域に通っている必要があります。

2)寒冷…八ヶ岳は国内トップレベルに寒いので、小屋前でのテント泊などで慣れを作ります。小屋泊りは卒業している必要があります。生活態度では、素手で金属を触るような人は失格です。皮膚を持っていかれます。また補給も考慮が必要です。慣れていないと補給がダメで凍傷になります。

寒冷になれるには、ワンシーズンくらいかかります。したがって、山岳部などで登山スタート一年目の冬山合宿で行くのは、お勧めはできません。若くても、慣れと行動がセットで身につく前に、山に食われてしまいますよ。

寒冷への基本的対処方は、できるだけ動き続けることです。行動を止めると冷えます。なのでゆっくり歩くんですよ。汗をかいてはならない。その上に風が吹くとどうなるか?凍傷です。そうしたことを学ぶために、事前にロングルートを踏破している必要があります。ロングルートなら樹林帯には風がないなど、様々な冬山環境を学ぶことができます。

3)雪崩…どこが雪崩スポットか?はすでに公開されています。雪崩講習は受講済みである必要があります。労山のがおすすめです。

4)道迷い…ピークを見て、自分がどこにいるかくらいは目視判断できる必要があるので、八ヶ岳の無雪期全山縦走くらいは済ませておかないと、位置関係が頭に入らないでしょう。さらに山頂で、どの方向に降りるか?でミスるひとが多数。コンパスも使えないとミスった場合にミスの回復が不可能になります。なので、読図はマスターしておきましょう。

5)登攀

このルートは本来ロープを出すルートです。初心者はロープを出す。初心者とは、”4級が確実ではない者”のことです。

したがってそのようなメンバーがいる場合は、ロープワークに習熟してから行ってください。

ムーブの能力を示すデシマルグレードでは、無雪期マルチでは2グレード下。積雪期では3グレード下くらいでないと安全にならない。4級は、ほぼ5.8以下という意味です。ですので、無雪期に4級のアルパインルートに行きたい人は、5.10aが、冬季に行きたい人は5.11のムーブ能力が基礎力として必要です。

■人工壁で習得できるのはムーブだけ

登攀のトータル能力を人工壁だけで磨こうとしてもできません。
人工壁はオーバーハングです。冬季登攀の登りと、なんら共通点がありません。例えば、”人工壁で5.11(=6級)が登れる山岳部キャプテン”って、何もスポーツクライミングのトレーニングをしていないのと同じことです。男性は5.11が何の事前トレーニング無しでも登れます。

一方、女性なら3年かかることもあります。5.11は、男子は3か月、下手したら3週間、あるいはその日で登れます。なぜならグレードは、ホールドが持てるか持てないかで決まり、そのホールドが持てることの前提に手が届くか届かないか、があるからです。

したがって、人工壁の5.11では、ホールドに手が届くことが確認できただけで、ロープワークも別物なので、何も登攀を習熟したことになりません。

したがって、より近い環境で下積みするには、外でしか行うことができないアイスクライミングで、4級がリードで登れるくらいになってから行ってください。

■ 私の阿弥陀北稜

私は、当然、登攀能力は、アイスクライミングで、氷柱の6級が、楽々登れるくらいと、楽勝になってから行ったので、リスクは自分ではほとんど感じませんでした。単独で初見で行きました。

この写真はアイス6級の登攀です。

6級のアイスクライミング

6級は、墜落リスクが大きいので、当然、初心者はトップロープです。

リード練習は、4級で行います。6級がトップロープでホワイトポイントで登れる人しか、4級をリードするのは許されないからです。リードは2グレード下げます。

これは4級のアイスリードです

次の写真は、5級寄りの6級です。下部は5級。上部で6級。

安全に登攀スキルを上げるにはルート選択が重要

なので、下で落ちることは考えにくく、上で核心、なので、こうした課題で、6級を練習します。

スタミナのために何往復もしてください。

最後は、ほぼ全部6級。

完成形。

全部6級がすいすい登れないと4級のリード許可はおりない

こういうのが、楽勝で(つまり、ホワイトポイントで)登れてから、4級のリード練習をスタートします。プロテクションを設置するのは、負荷があります。

無雪期の岩場でも同じやり方でやりましょう。

理由はプロテクションがプアだからです。

”ムーブのゆとり”が、リードクライミングには必要です。

トップロープノーテン(ホワイトポイント)で登れたら、もう俺は6級がリードで登れる!と思うのは、間違っています。

阿弥陀北稜、登攀のスタート地点

これが阿弥陀北稜の登攀スタート部。

6級のアイスや4級のアイスと比べても、けた違いに易しいのが分かるでしょうか?

ただのでっかい簡単な冬季ボルダーって感じでした。

当然ですが、アックスで登りました。岩を冬グローブで登る人、今時、いるんかな?

山は危険なので、これくらいのゆとりが必要です。

■ 山はインドアではない

山も外岩も、当然、天候リスクがあります。

従って、また下山時の道迷いリスクも高い。

八ヶ岳の場合は、どんなに晴れても、逆に晴れで安全であればあるほど、寒冷リスクは高くなります。

それらは、当然、雪山習得時代に、とっくの昔にリスクをマスクしているという前提が過去のアルパイン教育にはありましたが、昨今は、ジム上がりクライマーが、俺6級(5.11)の人工壁が楽勝で登れるから…という理由で、阿弥陀北稜にで行く、時代です。

すると、やっぱり凍傷になったり、下山路を間違えて、阿弥陀南稜側に降りてしまったり…遭難が起こります。

そのルートに行くために、何ができる必要があるか?を取り違えているからです。

私の場合は、寒冷リスクに対応する方法は、数年かけて雪山登山を独学で学んでから行きました。

みなさんも同じようにしてください。独学で学べます。逆に独学できない人は、適性がないかもしれません。

ちなみにクライミングのムーブが楽しい、とか、ムーブそのものが好きな人は、別に阿弥陀北稜、行かなくていいと思います。登攀スキル的には、なんてこともないルートです。

リスクに対するリワード、ご褒美を、ムーブの面白さ、と捉える人からすると、一般的にアルパインのルートは、リスクリワードレシオが悪すぎます。

今流行しているボルダリング、つまり、フリークライミングでは、ムーブの面白さ、をリワードと考えます。したがって、ムーブの内容が、単調でつまらない場合、何もリワードがない…。

私にとって阿弥陀北稜をはじめ、八ヶ岳のルートは、八ヶ岳にあるというだけで好きなルートでした。雪山自体が好きなんです。

阿弥陀は、特に冬季におすすめのルートが多く、真の入門者向けの阿弥陀中央稜、御小屋尾根、と次なるステップアップの位置づけとして、阿弥陀北稜に行きました。登攀スキル的には簡単すぎるので、リスクがないと面白くないので単独・初見。したがって、当然、次は、阿弥陀南稜、次は阿弥陀北西稜と続くわけです。誰でも私のやっていることを見れば分かる。

そういう視野がない人が、なぜかアルパイン業界も増えました。みんな何を目指しているのか?

■ 昔の入門ルートは、現代の卒業ルート

阿弥陀北稜は、現代では、大学山岳部一年目の基礎的な山、やサロン的山岳会が冬山合宿として行く山、という位置づけとしては、おそらく、ふさわしくないルートです。なぜなら、昔の大学山岳部とは、素養が違うからです。

現代のレベルに適切なのは、年間山行数が50日と設定して

1年目は、歩くだけのルートで脚力と山の天候への対処、生活能力を高め

2年目は、沢でのロープワーク、スポーツクライミングで、登攀の基礎固め

3年目は、積雪期ロングルート、で防御力を高め、

4年目に、卒業課題として入門冬季アルパイン、くらいでしょう。

これをルートに落とすと?

1年目は、八ヶ岳全山縦走 北から南 

2年目は、東沢釜ノ沢等+人工壁週2回+ロープワーク講習会

3年目は、積雪期八ヶ岳全山縦走 OR 奥秩父全山縦走、

4年目に、阿弥陀北稜

くらいでしょう。

昔の大学生は、年間130日山に行っていたから、先鋭的登山が可能だったんですよ?

今の学生にできるはずがありません。いくらインドアジムに通っても、基礎となる山での脚力も、山での思考回路、生活態度も身につかない。

人工の環境では、当然ですが、自然界について学ぶことはできません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?