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二度と行けないあの店で 文蔵旧本店

その日も岩村田の焼き鳥屋の横にありすごく繁盛していた。

アップテンポのヒットナンバー、客の話し声、ラーメンの好みを手際よく聞いていく店員の声、店員の「シャッ、シャッ」という威勢の良い掛け声、元気の良い「ありがとうございました!またお待ちしています!」という音がわーんとなって聞こえてくる。
また、豚骨をベースにしていて、店内で仕込みをしているため、店内からは独特の匂いがする。

 僕が初めて行ったのは、小学校の頃だったか、中では眉毛を剃り込んで怖い顔をした店員さんたちが「シャッ、シャッ」と言っていたのをよく覚えている。そして、いつも笑顔で接客してくれた。

 ラーメンは、豚骨ベースで、濃厚系のスープに極太麺が基本で、かえしや、トッピング、アブラの種類を変えて、様々なラーメンを提供している。現在の総本店に移る際にメニューを一部改訂しているらしいが、どれを食べてもハズレがなく美味しい以外に詳しいことは覚えていない。
 熱々の濃厚ラーメンを、夏は暑く、冬は寒い店内で食べる喜びを五感で感じる。
 文蔵にはよく通った。卒業祝いや、転居祝い、誕生日等々、何かあれば文蔵に行き、熱いラーメンを食べた記憶が鮮明に蘇る。僕が知っている店内はそこまで広くなく、壁には名刺が沢山貼ってあったことをよく覚えている。そこで、文蔵味玉らぁめんの普通、普通、硬めをよく頼んだ。味玉は我が家の財政状況と相談しての味玉。感慨深い味玉で忘れられない味のひとつだ。

 いつしか客も増え、駐車場が足りなくなり、客層もサラリーマン中心から子供連れの家族が中心になったからか、現在の場所に移ったのかと思う。いつしか、威勢の良い掛け声はなくなり、怖い顔をした人も少なくなり、なんだか寂しい気持ちになった。

 僕は、文蔵にラーメンを食べに行くのと同時に元気をもらいに行っていたのかもしれない。また、いつの日か、元気な文蔵を一眼でも良いから見てみたいと思う反面「日々進化」を掲げる文蔵グループの進化系が現在の姿だと思うと、それも納得できる。しかし、いつの日も、元気のいい挨拶だけは変わらない。この気持ちよさを胸に、ラーメンで腹を一杯に、明日も頑張ろうと思える。

次の文蔵グループの進化が楽しみだ。

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