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女流プロ雀士解体新書 佐月麻理子(文・藤井すみれ)

文・藤井すみれ

このシリーズも第三弾となる。
仲田加南和久津晶に続いて今回は日本プロ麻雀協会の佐月麻理子について書きたいと思う。
私がとりあえず3回このnoteを書くことが決まった時に、取材する相手は最初からこの3人に決めていた。
共通点は
「変わり者」
「人情家」
そして「狂気の麻雀愛」
である。

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佐月麻理子
2012年日本プロ麻雀協会に入会。
第14期・第19期女流雀王
第26期麻雀マスターズ

清水香織の王位(2001年)以降、16年ぶりにG1タイトルを獲得した女流プロだ。



【159cm41kg、風邪をひくと39kg】

佐月の摸打を見たことはあるだろうか?
その細い細い腕から繰り出されているとは思えない、力強いリーチモーション。
所作が美しい女流プロは多いが、彼女ほど感情のこもった打牌はなかなか見られない。
私は一度見ただけですっかりファンになってしまった。
たまに力強すぎて牌山をこぼしてしまうところもご愛嬌である。
普段はまるで幼女のようなしゃべり方で、嬉しかったです、悲しかったです、と麻雀について語る。

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しかし対局が始まるとその表情は一変する。

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まるで水中でもがいているような、苦しくてたまらないようなその表情。このギャップが佐月の魅力だ。

彼女と知り合ったのは5年前の春、麻雀マスターズの予選だった。
前から存在は知っていたが、初めて同卓して私は3着、彼女はラスだった。しかし私はとても楽しかったのを覚えている。
対局後にその半荘の話をしているうちに、
「この人ともっと麻雀がしたい。仲良くなりたい」
と思った。そのまま
「友達になりたいので、連絡先を教えて下さい」と言って交換してもらった。
その年に佐月がマスターズをとるなんて、もちろんこの時は知る由もない。

数日後にすぐ飲みに行き、意気投合。
それから数え切れないくらいセットをし、ゲスト先にお互い遊びに行き、それぞれの家にも招いた。
私の誕生日に秩父の花火大会を見に車で連れて行ってくれたり、彼女の誕生日に8時間みっちり東風戦で同卓したり。
私が出産で入院中に、差し入れを持って来てくれたり、突然家のそばまで車で会いに来てくれた事もあった。
まだまだ忘れているエピソードもありそうだが、
この5年ほどはかなり親密な付き合いをしている、大切な友人だ。

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だが、出会った以前の話はあまり知らない。
会えばよく話すのだが、生い立ちなどはあまり知らなかった。
今回このような機会ができたので、みっちり話を聞く事にした。

【ゲームの厳しさは4歳から】

佐月は3歳から6歳半まで、父親の仕事の都合でカリフォルニアで暮らしていた。

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父も母も仕事で日中いなかったので、近所に住むアメリカ人の老女・リズの家で過ごす事が多かったという。
リズとは色んな遊びをしたが、よく一緒にチェスをした。
幼い佐月が駒を動かしてから、
「あ、やっぱりちょっと待って!」
と直そうとするとリズは、
「もうだめよ」
と直す事を許さなかった。

そして佐月の母もまた、オセロをする時はガチンコ勝負。
一度も負けてくれなかった。

日本に帰ってからは、お正月になると広島の祖母の家で花札や麻雀をした。
祖母は「これは極道はんの遊びやからな」と言いながらも教えてくれた。

まだ小学校低学年の佐月は、今まで教えてもらったチェス・オセロ・花札より麻雀が一番楽しい! と夢中になった。
あるお正月、祖母と母と3人麻雀をしている時に母はトイレへ、祖母はお茶を淹れに行った。
早く次の局がやりたい佐月は、戻ってきたらすぐに再開できるように皆の山を積んで準備した。
しかし、戻って来た2人はこう言ったのだ。

「この山は麻理子が積んだから、何か仕掛けをしているかもしれないわ。崩しましょう」

佐月は衝撃を受けた。
そんなのしないよ! と思ったが、崩された山を見てそういうものなのか…と納得した。

リズ、母、祖母という3人の女達によって、幼い佐月は勝負の世界の厳しさを知った。


【コスプレ雀荘の面接】

そこから月日は流れ、大学生になった。
語学力を生かしての受験だったので、入るのは苦労せず、入ってからはとても苦労した。

大学ではサークルには入らず、各サークルの麻雀をやる時にだけ現れる謎の女と化した。
今日はあっちのメンツ、明日はあの先輩と!
祖母の家で年に一度か二度しかできなかった、あの楽しい麻雀を毎日打てる日々は最高だった。

そこからほどなくして友人とフリーデビューもした。あまりの緊張に四暗刻をツモったのに切ってしまった。
しかし、それが苦い思い出にならないほど楽しくてたまらなかったという。

自然な流れで雀荘でアルバイトしたいな、と思うようになった。
そこで初めて受けに行ったのが秋葉原の有名なコスプレ雀荘。
アニメの話などはできますか? と聞かれ、
「あんまり詳しくないです! でも大丈夫です!」
と自信満々に答えた。
受かると思っていた。
しかし結果は不採用。

「何で落ちたんだろう?」
と10年以上経った今でも納得いかないようだった。

仕方ない、と他の麻雀店の面接を受けて働くことになった。大学2年生の時だった。

【大学生で母になって】

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今の夫と出会ったのも、麻雀がきっかけだった。
仲の良い人達でルームシェアをするようになり、その5人の中にいたのが彼だった。
もともとは彼の片思いで、この先も付き合う事はないだろうと思っていた。

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