APD(聴覚情報処理障害)の検査と診断を受ける事って必要?という話

APDのオープンチャットに来られる方から、よく今日のタイトルにあるような質問が出る事があります。
そのたびに色々な意見が出て、その議論はコミュニティとしてとてもポジティブな事だと思うのですが
一度、私自身の一当事者としての意見も書いてみようかなと。

あくまで当事者目線なので、多分医学的な見地とはまた違う話です
今後のAPDの研究の発展、次の世代の聞こえの困難さを抱える方達の為を考えるなら、一人でも多くのAPD疑いの方に検査を受けてきちんと調べて頂きたいのもまた本音ですが。

~最初に結論から~
結論から言うなら、「診断結果」を一旦おいておいても
その結果に至る過程で種々の検査を通して手に入る「情報」は、自分がこれから生きていく上で自分自身と自分の聞こえの状況を理解する為にとても有用なものになります。
その情報こそが大事だから、可能な限り詳しく聞こえに関する検査は受けようぜ!というのが私の個人的結論です。

~そして、そもそもAPDじゃない可能性~
意外と見落とされがちですが諸検査の結果として
「そもそもAPDじゃなくて難聴だった」という結果にたどり着く可能性があります、ここはかなり重要
APDそのものは、現時点では特効薬はありません、定義も診断基準も介入法も確立されていませんが
難聴であれば話は別です。
実際、APD疑いで検査を受けて難聴が見つかる人は少なくありません、実際に診ている先生の話を聞いても1~2割の患者さんは難聴が見つかります。
難聴は様々な介入が可能ですし、補聴器が有効なもの、手術で軽快するもの、様々な手法が研究されてきました。
APDよりもはるかに「なんとかできる」可能性が高い聞こえの困難さです。
チェックリストなどに頼った自己診断で「私はAPDだろう」で止まってしまうと、この可能性にたどり着く可能性が低く、より先伸ばしになります
これはとてももったいない事です。

もちろん、アクセスできるAPDの診断が可能な医療機関がとても遠かったり、様々な要因の為に受診ができない方もおられますが
それらの状況が変わった時には、是非一度聞こえに関して詳しく調べて頂きたいと思います。

~結果としてAPDだった場合~
では話を戻して「結果としてAPDだと診断が出た」場合
その過程で検査を通して得た情報をどう役立てればいいのでしょうか。

大きく分けて、APDの背景を構成する要因は
発達障害、認知的な問題、心理的な問題、睡眠障害その他が挙げられます(国際医療福祉大の小渕千絵教授の研究)
これらの問題は、どれもゼロにすることは恐らく不可能です
発達面の凹凸を誤差レベルまでフラットにすることは恐らくできませんし、元々抱える認知的な問題も完全に解消できるという話は聞いた事がありません
ストレスをゼロにすることはできませんし、365日完全な睡眠を確保する事も不可能です。

ただ、これらは対策を立てて時間をかける事である程度軽減できる可能性がある要素です
AD/HDの傾向が強い方なら、例えば投薬によるある程度の緩和が可能かもしれません
認知面の問題も、例えばワーキングメモリ―の弱さは訓練する事で改善する可能性があります
心理面の問題も、例えば職場の人事異動や自分の周りの環境を変える事で軽減する可能性があります
睡眠障害も医学的に介入する方法を専門家が提案してくれるでしょう。

APDを構成する主な要因は、どれも「どうしようもない」要因ではないわけです。
勿論どうしようもないように見える要素もあります、例えば脳梗塞などによる重大な神経的損傷は改善を図るのがかなり困難かもしれません。
それですら専門家の力を借りれば、改善する可能性はゼロではないでしょう。

APDは決して「そうだと分かったところで何もできる事がない」症状ではないのです。
そして自分の聞こえを改善する為に必要なのは、自分自身の聞こえを悪化させている要因に対するより多くの、より正確な情報だと私は思います。
それと同時に「どう折り合いをつけていくか」も重要な視点ですが
根本的な情報を持たずにライフハックを調べ始める事も、優先順位の設定としては私は違うと思います。

どこまで自分の聞こえの状況を調べられるか、これは残念ながら今の日本では、お住まいの土地で利用可能な医療資源が大都市圏と地方都市で大きく違う事から人それぞれ大きな差があります。
様々な事情等によって、活動範囲が大きく制限されて今はどうしようもない方もいます。

ただ、聞こえに関して相談できる場所は必ずしも病院だけではありません
例えば特別支援学校(聾学校)は、高校生あたりまでの年代の方なら聞こえの相談を受けて下さるようです(聴力検査の設備もあります)
補聴器専門店(眼鏡店のような量販店ではなく)も、聴力検査の設備をお持ちで、聞こえに関する専門的な知識をお持ちの方がおられます。
各都道府県にある言語聴覚士会はどこもHP上で聞こえに関する相談を受け付けてくれています、問い合わせれば様々な情報を提供して下さるでしょう。

聞こえの困難さは私自身もそうでしたが、健聴な方が思う以上に大きく人生の幸福感を損ないます。
近しい人にまで誤解され、呆れたような表情をされる事が日常的であるとしても、それによって受ける傷は決して浅くはなりません、毎回が自尊心への致命傷です。
日々繰り返されるそのようなやり取りは、生きる事をただ辛い日々を耐え忍ぶ事へ簡単に変貌させます。

だからこそ、何かできる事があるなら、その何かはチャレンジする価値があるものだと思います。
その一つの選択肢として、聞こえに関して専門的な知識を持つ方を通して検査や診断を受ける事を私は個人的に(ここ重要)お勧めしています。

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