パリ・タクシー

Une belle cours久しぶりに人間中心に描かれたドラマを観た気がした。「ドラマ」に求める要素がきっちり納められていた。
クールジャパン、とかいってやたら”ここではないどこか異次元”の物語が溢れていて(別に嫌いじゃないんだけど)ここまでくるとやや過剰、食傷気味な昨今。対して、架空の世界の勧善懲悪でもない、ワンダラスな画角でもなく歴史的大事件でもない。今ここ、クウネル働く、な世界を地道に生きている人々と日常の中に描かれる“ドラマ”。

いつもお金に困っていてそのせいで周囲からの信頼も薄くなり、焦りと怒りを抱えてタクシー運転手をするシャルルはある日、長距離ハイヤーの回送を受ける。あまりの遠さに断りかけるが・・結局『稼げる』ので引き受ける。

ハイヤーを呼んだマダムの”寄り道”と寄り道に沿って話される彼女の人生について聞き入るうちにシャルルの気持ちが少しづつほぐれやがて友情が芽生える。その”寄り道”はマダムにとっては人生を最後に振り返る旅路でありシャルルにとっては最高の友人と巡り会えた奇跡の旅路になった。

原題”Une belle course"美しい道のり。(英語版タイトルは"Madeleines Paris"マドレーヌのパリ、日本語タイトルはパリタクシー・・・段々遠くなってる)原題の意味が二重にもとれるほど、パリの観光名所がここそこに描かれている。そんな美しい景色とマドレーヌが若かった時代の女性地位の低さ、辛さがコントラストを観る人に与えている。 そういえば、途中トイレに行きたいというマドレーヌのために小さな路地に入り、お店にトイレを借りれるようお願いし、路駐していて後続車からクラクションを鳴らされ怒鳴られても、ずっとマドレーヌをエスコートし続けたシャルルの姿も前時代とのコントラストをかもしているのかもしれない。 このあたりからシャルルの変化がはっきりと見えてくる。 引き続き語られる、若い時代の辛い経験、はのちの伏線になっている。
実は女性地位向上活動家として高名なマドレーヌ。彼女の遺言で全財産を受け継ぐことになったシャルル。この落ちはちょっと現実離れしているけど、回想シーンを除いてほぼこの2人しか登場しない、かつ、ラストに向けて「いやー、シャルルってほんまはめっちゃいい人やん!」となっている流れでは違和感はない。そして、遺言に添えられていたメッセージ。マドレーヌが語っていた言葉とリンクしているのだが、そのラストで観ている私たちにも彼女の何かが譲られた、気がした。
心の中に譲られたものが自分にとって何なのか、どうすることなのか。希望をもって考えられる、そんな後味の作品だった。
自分的には『生涯で観るべき』中の1本になりました。

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