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「自粛要請」について改めて考える (「行政書士」受験者も必見! 行政法のいい勉強になるかも)

2020/08/08


TONOZUKAです。

このブログでも何度となく書いていた「自粛要請」について。
今までは話の流れで出てきていましたが、今回は「自粛要請」そのものについてピックアップしてまとめてみたいと思います。


これは正直とても難しい問題ではあると思うのですが、あまり感情論を織り交ぜると余計に複雑になってしまうと思いますので、今回はあくまでも「行政法的にはどうなのか?」という観点から書きたいと思います。

ですので、ちょっと冷たく(硬く)感じてしまうかも知れませんが、一応その点はご理解下さい。

行政書士の立場から、行政法を学んだ経験とインターネット等で色々と調べた結果などを織り交ぜて、考えていこうと思います。



自粛要請とは?
の前に、行政の仕事としてどのような分類があるかを簡単に説明してみます。



行政の仕事について

ここは余り詳しくは分からなくても良いのですが、基本的に行政が行なう「行政行為」には強制力があるんです。そうでもしないとたくさんの業務をこなせないし、一人一人と契約結んでたらいつまで経っても終わらないから、などの色々な理由もあって、だと思います。
「行政行為」については大雑把に
1、行政が
2、国民に
3、権力的に
4、義務を課す
と思って貰えればなんとなくイメージが付きやすいかと思います。

その「行政行為」の例外的な位置付けとして「行政契約」「行政計画」「行政指導」などがあります。
これらは上記の例外1~4までのどれかが違う、という事になります。(何が違うかは各々に寄ります)

ここまで、でも分かりにくいですよね。。
でもここは軽く「そんなもんなんだ〜」程度で良いかと思います。



自粛要請について

では本題の「自粛要請」についてです。

基本的に「要請」なので、義務的なものでは無く、任意的(従うも従わないも自由)というものに当たると思います。

これは行政法で言うところのの「行政指導」に当たるのではないかと思います。
行政指導とは、「指導」と付くだけあって「お願いします〜」というレベルです。これ自体には実は強制力はありません。基本的に「要請」なので、義務的なものでは無く、任意的(従うも従わないも自由)というものに当たると思います。

(※行政法を勉強した事がある人はここで「あ〜、行政手続法だな〜。最近色々改正があったな〜」などか頭をよぎると思います。)


その行政指導なのですが、「法律によるもの(根拠法あり)」と「法律によらないもの(根拠法なし)」というものがあります。

今回のコロナ自粛に当てはめてみると、「緊急事態宣言」が出る前までの「自粛要請」は法律によらないもの、になると思います。

しかし「緊急事態宣言」後の「自粛要請」は法律によるもの、になると思います。

なぜならば「緊急事態宣言」は「コロナ特措法」によってなされるものだから、です。
要するに「コロナ特措法」による「緊急事態宣言」を出したことで「自粛要請」となった、という流れです。

何れにせよ「行政指導」には変わりが無いのですから、どっちも同じように見えますが、実はこの後の行政の対応に差が出てきてしまうのです。。


根拠法ありとなしの「自粛要請」の違いについて

では根拠法がある場合とない場合で何が違うのか?ですが、それはその「根拠法」の内容に寄ります。
そこで「コロナ特措法」を見ていくと、この中に〈指示〉という言葉が出てきます。45条3項です。

第四十五条 
特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
(住民に対する予防接種)

これは「住民」が対象では無くて「施設管理者等」が対象です。要するに店舗などになります。(住民は1項の通り「要請する事ができる」で終わっています)

要するに都道府県知事は「施設管理者等」に〈指示〉を出すことができます。(但し「正当な理由なく要請に応じない場合は」という限定文言が付きます)
そして〈指示〉をしたら〈公表〉をする義務が発生します。(45条4項)

そうなんです。。
〈公表〉する事は法律で義務となってしまっているのです。。
ですので大阪府等での〈公表〉は、あれは法律によるもの、なのです。。

このように根拠法がある場合の自粛要請は、その法律に書かれている事がプラスされてしまうため、いくら「自粛要請」が任意なものだとしても、それに対して厳しい措置がプラスされてしまう事も出てきてしまうのです。


ここでもう少し掘り下げてみると、この〈指示〉というものは行政法(行政手続法)で言うところの「行政処分(不利益処分)」に当たるのではないかと思います。(※行政手続法での「処分」は地方も適用なので)

そうなると、この処分(指示内容)に従う義務が発生してしまう事になりそうです。


なんとも面倒くさい、というか複雑というか。。

要するに
●「自粛要請」自体は任意(従うも従わないも自由)なのに、

●その「自粛要請」が法律の定めによるもの(今回はコロナ特措法)だと、その法律に書かれていることがプラスで付いてくる

●そのコロナ特措法には住民に対してはプラスは無いが「施設管理者等」に対しては〈指示〉ができる、となっている(但し、「正当な理由なく要請に応じない場合」の要件付き)

●しかもこの〈指示〉の後には「公表」する事が義務付けられている

●また〈指示〉自体が行政処分という分類に当てはまるので、指示に従う義務も発生する

●結局〈指示〉が出ると、それに従う義務が発生するし、尚かつ「公表」までされてしまう。

という事になります。


これは、自粛要請が単なる「行政指導」(従うも従わないも自由)なはずのものなのに、「コロナ特措法」による自粛要請になると、結局は従わないといけなくなってしまう、という事になるかと思います。。

※但し、これらは「施設管理者等」に対するものであって、住民は根拠法があっても無くても「任意の要請」である事には変わりはありません。


義務を回避するには

ここまででもかなりの量で頭を使ったと思いますが、もう少し続きます。

では〈指示〉(不利益処分)が出てしまったらどうすればよいのか?
ですが、今度は「コロナ特措法」ではなく「行政不服審査法」という法律に沿って対処してく必要が出てきます。

そもそも論として、この〈指示〉(不利益処分)を出すためには、相手方に意見陳述(聴聞、弁明)の機会を与える必要があるのですが(「こういう指示を出しますが、それに対して意見はありますか?」と聞くこと)、例外規定の一つとして「緊急の必要時」はこれらを省略できる、となっています。
なので、もしかしたらいきなり〈指示〉(不利益処分)が出てしまうかも知れません。。
この辺りは実際の動きを見てみないことには自分もどうなるかはまだよく分かりません。。
(これらは「行政手続法」によるものです)

では、この〈指示〉(不利益処分)が出てしまったら、どうすればよいか、なのですが、「行政不服審査法」を使って、「これはおかしい!」と文句を言うことになります。
これが「審査請求」というものです。

また、もう一つの方法としては(こちらはあまりお勧めしませんが)〈指示〉に従わない、という方法です。
これは、違法にはなってしまうのですが、〈指示〉自体には強制力がないとされているので、ここから先の強制手段が用意されていません。
(要するに現段階では、〈指示〉自体に従わないと違法ではあるが、罰則自体がない、ということです)

ですので、国の方はこの「コロナ特措法」に強制力を持たせるための法改正を検討しているようです。

これが決まってしまえば、違法でも無視して営業を続けるのは難しくなってしまうと思います。。

でもデメリットだけでも無さそうで、強制力があるという事は、「正当な補償」も行なわれるのではと思っています。


自粛に対する補償について

これはとても難しい問題だと思います。。
本来、自粛要請そのものが任意なものである以上、それに対しての補償というのは確約されていない、と思ったほうが良いかと思います。

自粛に強制力を持たせる法改正ができれば、もしかしたら補償もあり得ますが、現段階では「政府の政策として」というところに任されていて、「法的に補償」というのは厳しいのだと思います。








コロナ特措法

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031

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