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【厳格お父さん ①イヌのはなし】

今見えている景色は、そうだな。すごい全体的に大きく見えるな。気温はわりとちょうどいい。
児童公園なんかな?ネット貼ってるってことは周りは住宅街っぽいし。
この姿勢、安定したけど手が使いにくくなった。
あと毛が重い。今までの洋服の比にならないくらい重い。
この箱で捨てられてるって設定か。これ何日持つやろ。雨降らんとええけど。
茂みから見えるその公園で、楽しそうに野球をしている二人の少年がいた。
小さな体を一生懸命使い、真剣に遊んでいる様子が見えた。


「翔ちゃんボール飛ばし過ぎだよ!」
「とーるがやわなスローカーブ投げるからだろ!」
「もーなんなんだ、ボールどこ」
「あっ!なにこの箱。翔ちゃん!来て!」
「なにー。とーる、何の箱?それ」
「うわ!動いてる!」
「…」
「…」
「犬だぁ!」
「え、かわいい」
「犬!なんでこんなとこに!」
「捨て犬かなぁ」
「え?お前がオサジマの息子?」
「しっぽ振ってる!かわいい」
「なんか子犬なのにでかい犬だなぁ」
「あっ、そうだ、さっき買ったパンあげてみよ」
「犬にパンってあげていいの?」
「パンかぁ、まあ悪いってわけやないけどさぁもっとあるやん」
「きゅーきゅー言ってるよ、やっぱりおなかすいてるんだ」
少年たちから甘いパンをもらい、食べる。味覚はあんまり変わってないのか、普通に美味しく食べられた。


「どこの犬なんだろう」
「でも箱に入ってるってことは捨て犬だよね」
「ちかくに兄弟はいないのかな、一匹って変じゃない?」
「たしかに変だ」
「こいつだけ変で捨てられたとか?」
「こんなに可愛いのに?」
「でもうちには持って帰れないなぁ」
「うちも、ペット禁止だし」
「うーん、うちは一軒家だけどお父さんがなぁ」
「翔ちゃんのお父さんこわいよね」
「こわい。悪いことすると地獄に落ちるって」
「地獄は行きたくないよなぁ」
「うん、行きたくないなぁ」
少年たちなりにいろいろ考えている様子があった。きっと家族は自分の生きる世界を大きく占めているんだろう。


「いや大丈夫やで、オサジマ見れば分かると思うで」
「なんか翔ちゃんに向かって吠えてるよ」
「もっとパンほしいのかな?」
「もうパンなくなっちゃったよ」
「…でもさ、悪いことってさ、このまま犬をほおっておくことだよね?」
「…うん。昔見たことあるんだ。犬は一人だとほけんじょってとこ連れていかれちゃうんだ」
「ほけんじょ?」
「そう、いっぱい一人の犬がいてね、順番に殺されるんだ」
「…犬はなんにも悪いことしてないのに」
「悪いことしてないのに、そんな地獄に行くなんて」
「おかしいことだよね」
「…うん、おかしい」
「えっ保健所はまじで勘弁」
「でもうち猫がいるんだ、喧嘩しないかなぁ」
「仲良うできるで、まじで」
「大きい犬は自分が大きいのわかってるから大丈夫だよ。強いのをわかってるんだ。スーパーパワーのあるヒーローと同じ。」
「そっかぁ」
撫で方の優しいその少年は、なにひとつ濁りのない透き通った丸い目をしていた。
どっちに似たのだろう。両頬に目立つほくろがある。


「暗くなってきたね、そろそろ帰らないと」
「…うん」
「え?俺ここで寝るん?野宿やん」
「ごめんね、わんちゃん。」
「でも明日、おきたらまたパン持ってくるし、ガッコ終わってからも来るから」
「俺もちゃんと来る。約束する」
「まじかぁ、しゃないな、待ってるわ」
「話がわかるのかな、寝始めた」
「こんな人にいっぱい話しかけられてるのかも、飼えないけどさ、可愛いから」
「うーん、なんとかしたいね」
「ね」
少年たちがバッドやらグローブを持ち、自転車のハンドルに手をかける。そしてそれぞれの帰り道を向いてから振り返った。
「じゃあ翔ちゃんバイバイ!」
「うん!学校でな!」
「まあええか…」



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