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石巻ニューキネマパラダイス第13回 「慌ただしさは日常へ」

 遂に、映画と演劇が楽しめる複合エンタメ施設「シアターキネマティカ」が8月5日にオープンした。たくさんの幸せに包まれたオープニングセレモニーの余韻に浸る時間はなく、すぐに次のイベントが待っていた。そう、映画上映のこけら落としイベントである「いしのまき こども映画祭」である。株式会社ポプラ社共催による子供のためのアニメ映画上映会。張り切って臨んだ当日、予想通り想定通りにはいかないのが我々だ。

 万全に準備したにも関わらず、機材トラブルにより映像が複数回にわたり止まってしまう事態に陥った。何度も何度も謝罪をし、何度も何度も映像は止まる。普通であれば激怒して退室されてもおかしくない。


 しかし、子供たちやその親御さんたちは「この間にトイレに行こう」「今のシーンさぁ」「恐竜かわいいね」等と思い思いに話をしたりしながらその時間すらも楽しんでいた。私たちはその姿を見て、涙が出そうになるほどに感動した。こちらの落ち度で楽しんでいる映画が中断されてしまっている状況なのに、まったく怒りもせず責めもせず待ってくれている。

 申し訳なさと、そして必ず最後まで映画を届けるという誓いを硬く胸に刻み、映画はエンドロールを迎えた。「楽しかった」と、上映終了後に子供たちにかけてもらった言葉は、多分一生忘れられない。その言葉により俯きそうになった顔は上がり、入念なチェックを行い2回目3回目の上映はトラブルなく上映をすることができた。

 だが、逆境の神はいつだって私たちを見張っている。翌日の野外での映画上映。石ノ森萬画館をスクリーンに元気いちばの川沿いから映画を観るイベントも行ったが、私特有のピンチを迎える。そう、「雨」だ。悲しいかな、私は雨男として知られているが、今回もしっかりとフラグを回収し、雨を呼び込んでしまった。


 今回は逆境の神と天気の神がタッグを組んだ結果、上映時間にちょうど雨が降ってしまう中での開催となった。予備日も設定していたため延期にするかどうか、開始ギリギリまで悩みに悩んだが、前日の劇場での映画上映にも参加したご家族が観に来てくれているのを目にして、雨でも上映しようと開催に踏み切った。

 傘を差しながら、雨合羽を着ながら、屋根のある場所に避難しながら、来場してくれた方は思い思いに楽しんでくれた。子供は本当にすごい、雨の中でもまるで関係なく走り回って映画も観てくれた。そんな姿を見ながら、嬉しさと同じ割合で悔しさがあった。きっと雨で観に来られなかった子供達も多くいたことだろう。リベンジは必ずする。今回映画を観ることができなかった子供たちに必ず映画を届けることを、まだ顔を見ることのできない子供達に改めて約束した。



 劇場は、作った我々だけで育っていくものではない。来てくれるお客さんとも一緒に育て上げていくものなのだと分かった。トラブルやハプニングを越えた先に、はじめて劇場は輝いていくのだろう。劇場に足を運んでくれるお客様には最大のリスペクトを、そして最大の「楽しい」を届けられる場所にしていきたい。

 今回の「いしのまき こども映画祭」は、劇場を持つものの心構えを教えてもらうことのできるとても良い機会となった。そんな機会を作っていただいた株式会社ポプラ社をはじめ協力してくれた企業、団体の方々には本当に感謝している。 阿部拓郎

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