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第11回 カウントダウンは進み、僕たちは亀のように前へ

今回はこれまでの話だ。
来たる2022年8月5日は僕らの複合エンタメ施設であるが「シアターキネマティカ」がスタートする日。カウントダウンは無慈悲に進み、時計の針は僕たちの手をがっちりとつかんで離してはくれないので、限られた時間とは常に殴り合いで、何とかかんとか踵を鳴らして前へ前へ向かっている。

  思い出すのは、初めてシアターキネマティカとして生まれ変わる前の、元「清野ふとん店」であり元「千人風呂」のあの空き家に足を踏み入れた瞬間だ。しんと静まり返っている広い空間にはポツンとステージがあり、その独特な緊張感のある光景は劇場に似ていて、「ここは必ず劇場にしなければならない」と確信したのを覚えている。そこには確かにかつて人がたくさん集った気配や、賑わいの香りが感じた。そして偶然か必然か隣は敬愛する日活パール劇場。かつてネオンが輝く「文化通り」と呼ばれた通りに面したこの空き家には、大きな、大きな可能性を秘めていると、心に風が吹いた。その風は確かに僕達の背中を押したのだ。

  ここで、何もしなければ何も生むことなんてできない。そこからは、怒涛のように進んでいった。クラウドファンディングから始まり、神社づくりワークショップ、リボーン・アート・フェスティバルでは映画上映サポートや屋外で朗読会の企画運営、タクフェス公演の方言指導や映画製作のアテンドもしながら、ランドセルを背負ってアートパレード、たくさんの方々と施設作りワークショップ、エトセトラエトセトラ。

  なるほど、これまでのことを振り返ると、やっぱり僕らは「エンタメ」をしている。これは街を巻き込むエンターテイメント。僕らという存在が街に「エンタメ」を届けられると信じているからこそ、迷いはなく、歩みは少しずつでも、確かに「前へ」なのだ。

  そういえば、亀は身体の構造上、後ろに戻るということはないと聞く。立ち止まってしまっても、必ず足は前へ進む。今回のシアターキネマティカはまさにそうだ。いつも思い通りにはまるでいかず、壁や障害ばかりが親しげに近づいてきて、時に誰かに助けてもらいながらも、何とか後ろに下がらずに進んできた。その在り方を、もしかしたら相棒は魚で例えたかもしれないが、僕は亀がしっくりくる。

   スタートのカウントダウンの進みは、日に日に速くなっていく。それでも、亀のようにノシノシと着実に進むのだ。これまでも、これからも。
そして次回、いよいよこれからの話だ。 阿部拓郎

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