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ハイパーカジュアルゲーム開発に取り組むおもしろさとは(芸者東京 田中泰生 氏)

2020年1月23日、Unityオフィスで『ハイパーカジュアルゲームナイト - 世界のみんながすぐ遊べる、すぐに伝わる面白さをつくる』を開催いたしました。イベント運営の金田一と申します。

イベントページにもあるように、ハイパーカジュアルゲームの日本の先駆者である芸者東京 田中さんの『もっとハイパーカジュアルゲーム開発に取り組むおもしろさを伝えたい!もっと日本でもハイパーカジュアルゲーム開発者が増えてほしい!』という思いがこのイベントのはじまりです。

たくさんの人にご来場およびオンラインで視聴頂いたイベントから、芸者東京 田中さんの講演の様子をお伝えいたします。ハイパーカジュアルゲーム開発に取り組もうかなと考えている皆さんの参考になれば幸いです。

ハイパーカジュアル、基本的な流れと指標


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田中泰生 氏:まず最初に、よくこういうイベントやるとみなさん数字の話とかハイパーカジュアルってどう作るのという話がバーっとあるんですけど、ググればだいたい出てくるので、それが全てです。
まず最初にプロトタイプを作って、1万円くらいの広告出稿でUSなり他のマーケットでテストして、CPIが0.4, 0.5ドルくらいで獲得できるならなんとかOKかなって。それができると次は継続率で、ゲーム始めた人が翌日も遊ぶ1日目継続率が50%、3日目30%、1週間が15%とか、それができると大規模にいろんな広告サービス使って出稿していくという感じです。

ゲーム作りの修行みたいなものがあるとしたら、ハイパーカジュアルを作るのがいい


今日は数字の話はそれぐらいにしておいて、ビジネスめいた話ではなく、ハイパーカジュアルを2年弱ぐらいやって良かったなって思っていることについてお話しします。

ビジネスって意味で盛り上がっていることがみなさん興味を持ったきっかけかもしれませんが、僕自身やってみて一番思ったことは、ゲームづくりにおけるコアのエッセンスというか、もしゲーム開発における修行みたいなものがあるとしたら、最初に何をやればいいかというと僕はハイパーカジュアルを作るのがいいと思っています。
イメージでいうとサッカーにおけるパス、トラップ、ドリブルとかって、メッシとかロナウドとかめちゃくちゃサッカー上手い人も結局やっていることって、きちんと止めて、狙ったとこに蹴れて、足から離れずにドリブルできるってことですよね。基礎が全てというか、それを高いレベルでやるにしても基礎が一番できているからできるっていうことで。ハイパーカジュアルってそういう基礎を養う分野だと思うんですよね。

ゲーム作りで大事にしている4ステップ


僕がゲームを作る時によく言っている4ステップがあります。
・聞いておもしろい
・見ておもしろい
・さわりたくなる
・さわると人に伝えたくなる
この4ループがあれば、どんなゲームでも流行るなぁと思っているんですよね。

最近は、ハイパーカジュアルを作りたいと色んな人が入ってくれています。最近の事例でいうと、ゲーム開発経験が豊富な人が入ってくれて、すごくスキルがあるし、ゲームのこともよく知っている。でもプロトタイプを持ってきた時点で社内の他のメンバーからはじかれることも多いんです。
企画の一例でいうと「トラックの荷台に人が乗っていて、坂道走っていて、うまくやらないと荷台から人がボロボロ落ちるゲーム」を作ろうとしていると。ネタ的にはいいじゃんと。でも、いざプロトタイプを見た時にワオがないんですね。見た瞬間に。
僕らが3つUSでトップ取った時の感じだと(*下記画像タイトル)、当たっているやつは最初持ってきた時点でワオがあるんです。それは企画が出て、作り始めて3日目くらいです。その時点で見たものがワオがあるんですよ。そのワオが何かっていうと、ゲラゲラでもいいし、すげーでも難しいでもいい、感情を揺さぶってくる何かです。
そのトラックのゲームに関しては、我々は聞いた時はおもしろかったんですよ。超おもしろそう、やろうぜやろうぜと。でもその次、作ってみた時にワオがなかったんですよね。

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「ちょっとずつ良くしていけばいい」ではなく「オーディション的に作っている」


なんでワオがないかというのがめちゃくちゃ大事なんです。
普通ゲーム作る時って、例えば3ヶ月くらいならその3ヶ月のなかでちょっとずつ良くしていけばいいやって感じで作ってますよね。
で、僕らはそういうやり方をしていなくて、オーディション的に作っているというか、このステップでギャハハがなければ終わりというやり方なんです。毎回毎回、次のバージョン見た時にギャハハとかすげーとかがあるかどうかです。
企画から3日目のプロトタイプの時点なんで、エンジニア一人で作ったものでデザインとかはUnityのアセットとかから持ってきたものを組み合わせて、そんなに凝ったエフェクトとかはできないんですよ。そんな段階でも、エンジニア的にどれだけワオを作れるかがめちゃくちゃ大事なんです。

ハイパーカジュアルを作りまくることがゲームデザインの基礎習得に


そんななかで思い出す話が「スーパーマリオで、バーっと走ってきて、クリボー出てきてポンって踏む、そこを目コピして作ってください」っていう課題をエンジニアに出した時に、そこでゲームクリエイターとしてのセンスが分かるんですよ。
仕様でいうと、クリボーが来て、ピョコンと跳ねる、クリボーが死んで自分が反作用みたいな感じで跳ねてトコトコ歩いていくっていうそれだけです。一連のこのシークエンスを実装してくださいと言う時に、細かな指示は出しにくいんですよね。
走ってきて、ここで急加速して、急加速の仕方はこういうふうな関数でやって、跳んだ時に反発係数こんな風に上げてとか、ここまでやってくれるプランナーってたぶんいなくて、むしろそれはエンジニアがやったほうが絶対いい。そこの部分でおもしろいゲームかおもしろくないゲームかができちゃうんですよ。

あるいはRPGでいうとドラゴンクエストとかパラメータの芸術じゃないですか。成長曲線の芸術っていうか。
ハイパーカジュアルとか放置ゲームとかで、おもしろいかおもしろくないかを左右するパラメータの話と一緒で、ドラゴンクエストで例えば一歩歩くごとに敵が出てきて、とやったらあっという間におもしろくないゲームになってしまう。パラメータ1個変えるだけで。逆に4時間くらい歩いても敵出てこないとかあったらやめますよね。
テトリスでもなかなか揃わないとか、永遠にバーばっかり出ていたらゲームとして破綻しますよね。

そこっていうのはゲームをおもしろくする一番のゲームデザインの基礎です。僕がハイパーカジュアルをめちゃくちゃ気に入っているのは、ビジネス的にもうかるからでも、早く作れるからでも、小さい会社でもできるといったことではないんです。この試行錯誤です。
どうやってアクションゲームを、RPGを、パズルゲームをおもしろく作れるかといったパラメータの試行錯誤を、ハイパーカジュアルであればめちゃくちゃ早く多くこなすことができます。ゲームにおける公文式とかあるならハイパーカジュアルを作りまくることだと思うんですよね。

客観的にデータで分かることと、その回転数の早さがハイパーカジュアルに取り組むおもしろさ


今日も会場にうちの2年目社員の金子さんが来ていますが、15年くらい働いた人とかが金子さんに対してびっくりするんですね。どうやったらゲーム作るアイディアの引き出しがそんなにいっぱいなんだ、と。
それは僕らはハイパーカジュアルをやりだしてから、たった3つしかしていない成功の陰に何百っていうゲームを、企画からあわせると何千というゲームを考えてきているからなんです。試行錯誤を毎日毎日やって、それがドラゴンボール風にいうと精神と時の部屋のような感じかと。ゲームにおける。こういうとこに2年とかいた人間ってこうなるんだな、というのがここにいる金子さんとかなんです。

芸者東京はハイパーカジュアル道場みたいな立ち位置でやってますけど、試行錯誤の回数が圧倒的に多いんです。
これまでなら実績のあるディレクターが経験と勘でダメ出しをしていたようなことが、客観的にデータで分かるわけです。これくらいの人が離脱しているとか、自分たちがおもしろいと思ったことが実際はどうなのかを。そのやり取りがめちゃくちゃ早くできること、これがおもしろいなっていうのがハイパーカジュアルです。

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レジェンダリーな人がハイパーカジュアルで経験値を積んできた人たちから生まれてほしい


今僕と一緒に作っている若い人たちの中から、次の宮本茂さんとか坂口博信さんとか、世界的にいうとシムシティのウィル・ライトさんとか、レジェンダリーな人っていっぱいいますが、そういう人たちって、今ハイパーカジュアルを作っている若い人たちの中からたぶん出てくるんだろうなと思っているんです。
僕自身もハイパーカジュアルにのめり込んでますけど、ここで終わりじゃないなって思っていて、これだけ多くのゲームを作る、おもしろいこと作るための経験値をためてきた人たちが集積していると、次どんなジャンルを作るにしてもいけるんじゃないかという妄想を抱いています。

いつに似ているかというと、小島さんがメタルギアの最初のバージョンを作っていた頃に重ねてしまうところがあります。ただMSXなんでマシンパワーがないんで、表現形式は上からの見下ろしです。でも世界観とか今のままなんですよね。もしふんだんなマシンリソースが与えられたらきっとこういうものを作る、でも今はマシンリソースがこれしかないからこういう風になっているっていうのがMSXバージョンで、僕とか見たら涙が出てくるんですよね。小島さんはこの時から20年以上ずっと、いま実現されているものとかああいうのを夢見ながらやってたんだなって。
当時は小さいプロジェクトでも、その時にノウハウを積んでいたはずなんですよね。こうすると人が喜ぶ、こうするとやめちゃうとか。

僕が小さい頃遊んでいたゲームのレジェンダリーなクリエイターたちって、1980年代のファミコンの頃に若い人たちが数ヶ月で作ったゲームをバーって出して、売れた売れないってやってた人たちです。その人たちが結局いま世界のAAAタイトルの上の方にいるんですよね。
もし今、僕が20歳に戻ってゲームクリエイターを志して大きい会社に入っても、一つのゲームを頭からしっぽまで作らせてもらってお客さんに問う機会ってたぶん与えられないと思うんです。10年くらいかかると思うんですよ。

それをハイパーカジュアルって分野は、もう今日この日からそういう経験をぐるぐる回せるわけです。それをやった人と、大きなスタジオ入った人と、どっちが5年後10年後すごいゲームクリエイターになっているかというと僕は自明なんじゃないかなって、だからハイパーカジュアルという分野はおもしろいなって思っています。

今はアセットもあるし一人でも作れるんで、ビジネス臭ではなく、そういう目でハイパーカジュアルを見てほしい。一方で、色々言う人がいるんですよね、ハイパーカジュアルやってると。いやあんなのはゲームじゃない、と。色々言われるんですけど、違うんですよ。いつも言うんです。宮本茂さんがマリオ作ってた頃は、ゲームを作るってことを馬鹿にされるような空気感もあったんですよ。今はどうですか、今はもうゲームって世界の文化ですよね。
それと一緒でハイパーカジュアルっていうのは僕は新しいヌーベルバーグだと思っているんですよ。そこに僕がいてやれているということが、若い真っ白なセンスある人と一緒に仕事できているってことが僕のなかのハイパーカジュアルやってる喜びなんですよね。ビジネス的にどうのこうのじゃなくて。

今日はエンジニアというバックグラウンドの人が多いと思うんで、そういう気持ちでやって、10年後20年後にここから日本の次のゲームクリエイター、次の小島秀夫さんとか次の坂口博信さんとか次の岡本吉起さんとかが出てくるといいなぁと思って毎日取り組んでいます。
なので僕もそうなりたいと思って、まぁ50歳くらいの時にレジェンダリーになれたらいいなぁと思って、そういう気持ちで日々修行しています。

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以上、田中さんの本講演部分です。以降、質疑応答や、懇親会で登壇者や開発者同士でのコミュニケーションも活発に行われました。ハイパーカジュアルゲームナイトは再び開催予定です。以下のTwitter含め、今後の情報取得やこういうトピックがあれば参加したい等あればぜひご連絡ください。
Twitter: @kinda1k

よろしくお願いいたします。

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