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小学校35人学級の悪夢! 約40年ぶりの学級編制の標準の一律引下げの影響とは ①

 悲願の小学校35人学級は、現場では悪夢の始まりであった!

 令和3年度予算関連法案として提出していた「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案」が国会で成立しました。

 背景として、子供たちの多様化、GIGAスクール構想によるICT等を活用した個別最適な学びと協働的な学びを実現するとともに、新型コロナウイルス感染予防のため、教室の密を解決しなければならないという喫緊の課題もありました。

 そして、萩生田大臣の英断により、小学校(義務教育学校の前期課程を含む)の学級編制の標準を、5年間かけて計画的に40人(小学校第1学年は35人)から35人に引き下げることになりました。

 学級編制の標準を計画的に一律に引き下げるのは昭和55年以来、約40年ぶりのことであり、少人数学級の実現は、教育現場からの長きにわたり強い要望の一つでした。

 萩生田大臣は令和3年3月30日の参議院文教科学委員会で、今後の更なる取組の展望として、
「私はやはり将来を担う子どもたちへの投資というものは、これは誰もが認めていただける、そういう価値観をこの日本の国会は持っていることが極めて大事だと思っていまして、そういう意味では、とりあえず、35人の第一歩を踏み出しますけれど、やはりそれは少人数学級にしたほうが子供たちの学びはよくなるよね、学校が楽しくなるよね、子どもたちが明るくなったよね、多様な評価を皆さんでしていただいて、その成果を中学校、高校へとつなげていくことが必要だと思っていますので、しっかりその方向に向かって努力をしていきたいと思っております。」
と力強く述べています。

 「誰一人取り残すことなく、全ての子供たちの可能性を引き出す『令和の日本型学校教育』の構築に向けて、GIGAスクール構想と少人数学級を車の両輪として引き続き全力で取り組んでまいります。」と・・・・。

 財務省と、文部科学省との闘いは、コロナ禍という追い風もあり、取り敢えず、文部科学省サイドの勝利といえるだろう。ただし、学級編成の標準人数を40人から、35人に引き下げたからと言って、そのまま、夢の35人学級が実現するとは限らない。

 この変更により、R3年4月から、各都道府県、政令市の教職員定数に突然大きな欠員が生じることとなった。各教育委員会とも、急に不足数を埋めようとしても、教職希望の大学新卒者が増える訳ではない。

 大学の就職活動として、2年次には企業でのインターンシップを経験し、3年次の早い時期には大企業への内定が決まるという日程が定着している。

 一方、教員採用試験は、他の公務員採用試験と同じく、前年度の夏以降に、試験や面接が実施される。その時の景気にも左右されるが、一般企業、教職のいづれでも働くことができるいわゆる「適応能力が高い卒業予定者」は、教職の採用試験の時期には、もう既に、あまり残っていないのが現実である。

 基本的な前提条件として、小学校教員になるためには、小学校の教員養成課課程を設置する大学・短大を卒業しなければならない。そのため大学運営当局は、通常の学部の専門、一般教養の教員数に加えて、教員養成に係る専門教員の確保が必須である。中学・高等学校の教員養成課程には、各専門教科の教員と、教職教養全般担当の教員とを充てればことたるが、小学校教員養成課程では、すべての教科の指導に関する教員をそれぞれ専門科目ごとにと、教職教養全般に関する教員を配置しなければならない。

 特に近年は、教員の大量退職が続く都道府県や政令市が多く、ここ数年売り手市場であった。それに加えて、35人学級に伴う教職員のニーズの突然の発生である。どの大学も、できれば小学校教員養成課程の新設や増設を考えるではあろうが、必要な教員を確保するのが非常に難しい状況である。

 更に、実際に各大学がこれから定員を増やしても、その増えた卒業生が出せるのは、最低でも4年後で、その時期には、教員定数改定の5カ年間は終了してしまう。5年後の教員採用が見込まれない。また、教職員の働き方改革が広く知られるにつれ、教育現場の働く条件の悪さばかりが、マスコミにクローズアップされ、教職志望の大学生はますます減るばかりである。

 優れた資質・能力を持つ、教員確保が難しいと考えた都道府県・政令市教育委員会は、この数年前から、正規職員の採用に積極的に乗り出している。

 このことが、教員確保、特に期限付き講師の採用に大きな影響を与えている。この先ますます、教員採用が厳しくなることを見越して、各教育委員会が、青田買い(十分な能力がない者まで、積極的に採用)しだしたのである。新卒の小学校教員免許の取得者が増えない中、採用数が大幅に増えた結果、採用試験に不採用になる受験者が急減してしまった。

 これまで、採用試験の不合格者は、臨時採用の常勤講師の候補として、重宝していた各教育委員会が、そのストックを失ってしまったのである。

 更に悪いことに、このコロナ禍による教育のICT化の進展である。変化を最も苦手とする教員にとって、悪夢の始まりであった。急に、「タブレットを使って授業をしなさい。」「授業動画をつくりなさい。」「休みの生徒にオンライン配信しなさい。」などと問い言っても急には無理な話です。

 これまでは、20年以上の時間をかけて、導入してきた小学校英語でさえ、年配の教員多くはできれば関わりたくないと何とか逃げまくり、「高学年の担任ができない口実」とさえなっていた。20年も研修を行い、必要な人材を育て、準備してきたのに、・・・。

 それと比べて、タブレットの全校導入は明らかに早すぎました。年配の多くの教員が、新しいことに対応できません。安倍総理の鶴の一声で決まった、一斉休校の際、大量のプリントが配られたのは、記憶に新しいと思います。

 これまで、多くのことを学校現場に導入してきた小学校の教員でも、早すぎた様です。特に、60才を超えて、再任用を希望される教員が激減してしまいました。これは、各教育委員会にとって、大きな誤算だったと思われます。

 さらに、高齢者が、コロナが重症化するリスクが高いことも災いしています。50代から60代の多くの教員が、親の介護や、孫の世話をしているのも事実です。退職に、更に拍車がかかってしまいました。

 文部科学省の「令和3年度(令和2年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」によると、小学校教員採用試験の全国平均倍率が2.6倍(過去最低)です。教育学の研究知見から、倍率が3倍を割り込むと必要な能力を持った教員を確保できないと言われている

 ・・・(続く)





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