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なにもしない

ひとりの時間、足りてますか。

私はひとりの時間が無いと恐ろしくストレスが溜まるタイプである。
おでこの奥の方、鼻の付け根の奥の方がズーンと重くなり、頭痛が始まり、眉間にシワがより、無表情となっていく。

現在ひとりになれる時間は、仕事に行く時の車内で往復20分と、スーパーでの買い物だけである。足りない。

家族とはいえ、誰かが家に居るという状態は完全に気を緩めることができない。
突然お昼は外食したいと言われたり、ノートが終わったが替えがない、と言われたり。
「今日は家から出ない」という誓いなど家族の前では無力である。

ひとりで何をするわけでもなく、床に積みっぱなしの漫画や本を読んだり、多肉植物の様子を見たり、インスタントラーメンにやたらモヤシを乗せてみたりしたいだけである。
それはとても贅沢な事なのだと現在ひしひしと感じている。

明日、私は何もしない。
決めたぞ。外には出ない。

そうと決めたら忙しい。
まず買い出しに行き、料理をしなくていいように惣菜や肉まん、ピザ、お菓子、冷凍パスタなどをカゴに入れる。
自分のビールと家族のアイスも忘れずに。
アイスがあれば何とかなるだろう。
何とかなってくれ。

帰宅後は洗濯を干せるだけ干しまくる。
キッチンのカウンターには「お好きにどうぞ」のメモとともにお菓子やパンをセット。
惣菜はすぐに温められるよう皿に移しラップをかけて冷蔵庫にどんどんしまう。

もういいだろうか。
いや、まだだ。

アイスはケンカにならないように同じ数に分け、それぞれ名前の書いたビニール袋にいれる。余ったひとつは誰にも見られないように急いで食べる。
米を炊き、ラップに小分けし冷凍する。

そしていよいよ家族に宣言する。
「私は明日、家から出ない」と。

はいはい、と返事をしているが信用ならない。
CMで見たものをすぐに食べたい、買ってきてくれと言い出すのを私は知っている。
テレビはつけないでおこう。
幸いオンラインゲームやYouTubeに夢中なので乗り切れるはずだ。

大人になると「何もしない」をするのも大変だ。
前日の準備だけで力尽きる可能性もある。
リスクは大きい。
しかし私は全力を尽くす。今日の頑張りは明日の「何もしない」に繋がるからだ。

その時は、そう思っていた。

翌日、ヘルメットを被り、笑顔で自転車の鍵を持った我が子に肩を叩かれるまでは。

彼には大人の都合など通用しない。
自転車に乗りたいから乗る、ただそれだけである。
今日はとてもいい天気だ。重すぎる腰を上げて外に出たら、それはそれで楽しいかもしれない。

だが私は諦めの悪い女である。
来週も「何もしない」に挑戦する。

できれば雨が降るといい。雨の日はさすがに自転車には乗らないだろう。
そして今から体調を整えておかなくてはならない。体調の悪い「何もしない」はただの療養である。

前日の買い出しなどの準備でダウンする訳にはいかない。体力勝負である。
だとすると、やはりここは自転車に乗りに行くべきなのか。
彼はおそらく私の体力不足解消のために自転車に乗ろうと言っているに違いない。
ならば仕方がない。乗ろう。
すっぴんだし、寝癖もすごいが気にしない。

来週の「何もしない」のために、私は今から自転車に乗る。
多分、暗くなるまで帰れない。

今日の止まらないおやつ
「やおきん 餅太郎」






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