押したい
私が子どもの頃はガチャガチャと呼ばれていた。
100円で回せたし、スーパーボールやゴム人形のような物しか入っていなかった。
カプセルトイの話である。
どうも私は昔から収集癖があるようで、チョコエッグの中身や、お菓子のおまけ、カプセルトイに目がない。
集め始めるとキリがないもので、カプセルトイなど現在は400円、500円が当たり前の世界である。
油断するとすぐに何千円も消える事になる、非常に危険なお楽しみである。
節約生活を送る私にとっては、命取りになる恐れがある。
だから私は自分にルールを課した。
「カプセルトイを回すのは一度だけ」
お目当ての物が出なくても守らなければならない。
ギャンブルと同じで、次は出るかもしれないという期待で痛い目にあってきた自分が決めたルールである。
これを守るべく、何が出ても良いと思えるカプセルトイを求めて彷徨う。
売り場は充実していて、アニメキャラクター、生物、レトロ、ミニチュアなど多岐に渡る。
良いな、と思った物がいつも同じメーカーだったりする。
よく買ってしまうのが、「タカラトミーアーツ パンダの穴」から出ているカプセルトイである。
どれも私の心をくすぐるいけないやつである。
そして今まで購入した中で、いちばん高価な物は「ダンゴムシ」である。500円なり。
丸まったダンゴムシがそのまま出てくるという事で、どうしても回したくて探し回った。
当時とても話題になった為、私の住む田舎ではなかなか発見できなかった。
家族にも「ダンゴムシ」を見つけたら買ってくれと500円玉を渡し、妙なものを見る目で見られたが、そんなことを気にしていては欲しい物を手にすることはできないのだ。
その後、こんな所にあるはずないだろう、と言うような寂れたゲーセンで発見し、すぐさま500円を投入。ぐるりと回すとコロンと出てきたダンゴムシの色は赤であった。
こういう時に欲しいのは定番色なのだ。
シークレットでもなく定番。
もう一度回すとなると、合計1000円になってしまう。ダンゴムシに1000円。
1000円あればランチが食べられるよ。
思い直せ、自分。
なんとか500円で抑えるんだ。
震える手を押さえ、なんとかその場を後にした。
見つけるとどうしても買ってしまうのは、映画「チャイルドプレイ」や、「IT」などのホラー系カプセルトイである。
かつて映画リングの「貞子」も手に入れたことがある。
業界は私の欲しい物がよくわかっているようだ。
「貞子」については一回ではすまなかった。完敗である。
そしてもうひとつ、あれば回してしまうのが様々なスイッチ、ボタンの類である。
今私が所持しているのは、バスの降車ボタン、自販機のボタン、電車の発車ベル、ブレーカースイッチ、飛行機のコックピットにありそうなスイッチなどである。
音が出たり、ライトが光ったりするが、重要なのはそこではない。
感触がとても大事なのだ。
家のブレーカーなど下げたり上げたりする訳にはいかないが、カプセルトイならそれが可能なのだ。
バスの降車ボタンも押しまくりである。
幼少の頃、出産の為入院していた母のお見舞いに行った際、入ったトイレにあった非常ボタン。
具合が悪くなった人が助けを求めるための物だったはずだ。
それを押してみたくて、我慢できずに押してしまったのだ。
音が鳴ったか覚えてはいないが、看護師さんがわんさか来たことは覚えている。
記憶には無いが、怒られたはずだ。
それから、スーパーのレジに母と並んでいた時、隣の店員がいないレジのボタンを押したこともある。
ピーと言う音がして、押したことがばれて母にものすごく叱られた。
高校生になってバイトでレジのボタンを押した時は、とうとう思う存分押せるのかと嬉しくなったものである。
大人になった今は、押してはいけない物は押さないが、正直押したい。
それが可能なのはカプセルトイなのである。
今後も新たなスイッチを求め、両替した100円玉をポケットに詰め込み、カプセルトイ巡りを楽しむつもりだ。
そして「回すのは一度だけ」を心に、自分を律して我が道を行こうと思う。
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