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春から夏

飼っている亀が、わさわさと動き出したので春がきたな、と思った。

我が家メンバーの一員、ミシシッピアカミミガメ、冬眠から目覚める。
いわゆるミドリガメ。ちなみにオス。
彼はホームセンターからやって来た、目元の赤いラインがイケてる亀である。

いつのまにか飼い主が我が子から私にすり替わり、毎日の餌やりと水換えをやっている。
全く懐いてはいない。
晴れた日は出窓に陣取り、日向ぼっこをしている。
手足を甲羅から伸ばしきり、全身に陽の光を浴びている。
うっとりと瞳は閉じられている。
甲羅もよく乾き、とても気持ちよさそうだ。

その様を私はカーテンの僅かな隙間からそっと覗いている。

姿を見せると残像を残し、猛スピードで水の中に入ってしまうのだ。
もう8年くらいの付き合いだというのに。

先代のクサガメは「ゴハンがきたぞー‼︎」というワクワク感を全面に出して近寄ってきてくれたが、そんなそぶりは全く見せず。

甲羅を掴めば全力で振り解こうとし、手足をバタつかせ長い爪で攻撃し、隙あらば噛みつこうとする。
アメリカ出身なだけあってパワフルな荒くれ者である。

そんな彼も冬は水の中でじっとしている。
全く動かない。
室内なので完全な冬眠とは言えないだろうが、エサも食べず、息を吸いに上がってくる様子もない。
どうやら皮膚呼吸ができるらしい。便利。

だんだんとポカポカ陽気の日が増えてくると、モゾモゾと動き出す。
すぐにはエサを食べないので様子を見る。
水槽を泳ぎ回り、波のプールのようになってきたらエサやりの合図である。

亀用ペレット乾燥オキアミをあげているが、オキアミの減りの方が早い。
自然に近い物の方がやはり良いのだろう。

先代はマグロの切れ端をあげた際、大盛り上がりであった。
その後、近づくたびにマグロかな?という感じで寄ってきたので、「ごめんよ、オキアミだよ」と言いながらパラパラとそれをまいた。

一瞬間が空き、仕方なさそうにバクっとオキアミを食べていた。
表情は変わらないが、感情が伝わってくる一瞬の間であった。

どちらの亀もとても喜ぶのは、川で捕まえてきた小さなエビである。
夏、我が子を連れて少し田舎の街中を流れる小川に向かう。
水深は膝下、お世辞にもきれいとは言えない小川だが、このくらいの方がエビやおたまじゃくしなどが多い気がする。

以前、山奥の本当に水のきれいな川に行ったが、なにも見つからずに帰ったことがあった。
大人は自然に癒され、満足した休日だったが、我が子はというと、空のバケツとを持ち、静かに涙を流す、というかわいそうな休日となってしまった。
子どもにとっては遠くの清流より近くのドブ川である。

そんなドブ川の茂みを網でガサガサすると、大量のエビが獲れる。
3センチくらいの透き通ってきれいなエビ。
飼ったこともあるが、とてもかわいい。
エサを食べる様をずっと見ていられる。手間もさほどかからず結構長生き。

そんなかわいいエビを亀の水槽に放てば、一気にそこはサバイバルの舞台となる。
亀も野生を思い出し、猛烈なスピードでエビを捕食。エビも捕まるまいと水槽から飛び出すジャンプを見せる。

阿鼻叫喚。

そんな言葉が浮かぶ世界が、我が家の出窓で繰り広げられている。
たまに干からびたエビが発見されたり、エビと一緒に入れられてしまったおたまじゃくしが捕食されるのを目撃して衝撃を受けたりもしている。

そろそろ「飼い主」を私から我が子へ返還するべく策を練ろうと思う。
調べたところ、亀の寿命は30年ほどあるらしく、私の方が先に寿命を迎えそうな気がしてならない。
それまでに返還せねば。

春はあっという間に過ぎるだろう。
そうすれば暑い夏が来る。
今年の夏は網を新調しよう。亀が食べる分と私が飼う分。いつもよりたくさんエビを捕まえよう。

春と夏の間はいつもワクワクする。
暑い夏がくれば最高のビールが飲めるし、収集しているTシャツも着放題だ。
こうして今か今かと待ち侘びた夏を迎えると、酷暑に嫌気がさして早く秋にならないかと言うはずだ。
これは毎年恒例の話である。

今日の止まらないおやつ
森永製菓 ポテロング しお味









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