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はずれの向こうがわ

わたしははずれを引きがちです。


中学校の体育大会、
出場競技を決めるのは真剣勝負でした。
いちばんやりたくなかった
800m走メンバー決めの時、
陸上大会に毎度出場する猛者たちが
我こそはと名のりをあげる中、
ひと枠だけ人数が足りないのを
じゃんけんで決めるんです。
いわゆるはずれ枠。
8人くらいはいたと思うんですが…

「じゃんけんほい!!」
一撃で撃沈しました。
渾身のグーは小さくひっこめられました。

体育大会当日。
「がんばれー!がんばれー!」
大勢の観衆の拍手と歓声に見守られ、
ひとり校庭のトラックを走っていたのはわたしです。

猛者たちはとっくにゴールし、
わたしだけがワンマンライブで走らさせられる
という恥辱の時間が設けられました。
お調子者ならば両手を挙げて
イエ~イ!とゴールをきりたいところでしたが、
お年頃でしたし、かわいそうな子に思われるのがイヤで恥ずかしそうにゴールへ転がりこむが精一杯でした。

わたしにとって苦い思い出のひとつです。
その場にいた誰ひとりとしてそんなことは
覚えてもいないでしょうけど。




そんなわたしは20代の頃、
受付のお仕事をしていた事があります。
交代制で早番、通常、遅番があり、
わたしはその日早番でした。
年に1度あるかないかの大雪の日、
この仕事は機能せず、かなりの人数のお客さまにキャンセルをお願いしないといけなくなりました。

そうです。またはずれをひいたのです。


「よりによってこんな日に早番か。」
別の部署の先輩がひょっこり顔を出していいました。
「もうー!どうしましょう!?」
仕事がどか雪のごとくあたまにのっかった
わたしはちょっとしたパニック状態でした。
「手伝うから、なんとか頑張ろう。」
先輩も予定が変わり忙しいはずなのに
隣にどっかと座ると名簿を手に
電話をかけ始めてくれたのです。

そうだ!しっかりしなければ!と
我に返ったわたしは受話器をとり、
お客様に予定変更をお願いする電話を
ひたすらかけまくりました。

しばらくすると通常勤務の受付の同僚も出勤してきて、なんとか3人で凌ぐことができました。


ホッとして管轄外なのに手伝ってくださった
先輩にお礼を言おうときょろきょろしていると、
フロアの向こうからおいでと手をヒラヒラ
させていました。

「お疲れ。」
ミルクティーの缶を差し出されました。
わたしが休憩時間にいつも飲んでるミルクティー。冷たかった手がじんわり温かくなります。
「お礼をするのはわたしの方です。」
「ええねん。おまえ、よくはずれひいとるやろ。頑張ってるん知っとるからな。」

喉の奥がぐっと熱くなりました。
ミルクティーのせいか、
泣きそうになったのをこらえたせいかは
わからなかったけど。

わたしがはずれを引きがちなことを
知ってる人がいたなんて。
頑張って耐えていたことまで
知っていたなんて。


わたしにとってほの甘い思い出のひとつです。
彼はそんなこと覚えてもいないでしょうけど。

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