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買うつもりはなかったのだけれど (11)

古家付き土地として出ていた安い物件を見に行った。市街化区域で道路に面していないので再建築不可、いまあるボロ家をこわしたらもう建物は建てられない。不動産屋に内見を申し込んだら「開いてるからご自由にどうぞ」という返事である。つまり案内はしたくないから一人で勝手に見に行ってくれ、ということだ。まあ、そのほうがこちらとしても気楽で良い。こんな物件に興味を示す奴はどうせ内見マニアだろう、と思われているのかもしれない。

現地に行ってみると、たしかに門扉に鍵はかかっていない。ヒモで結んでおざなりに固定されているだけだ。しかし外から眺めただけでもなかなかの入りにくさである。草ぼうぼうで、さらに自然に発芽したらしい雑木が生えまくっている。春先だからいいが夏場はすごそうだ。崩れて壁だけ残っている廃屋なんかもある。気持ち悪いけれどせっかく来たからと思い、そっと進んでみる。

母屋は茅葺に波板をかぶせたいわゆる缶詰屋根というやつで、その周りを瓦葺の下屋が囲んでいる。規模は小さく、こじんまりとしていい感じだ。ただよく見るといろいろなところが直線でない。棟の線も微妙にたわんでいるし、軒も垂れ下がりつつあるようだった。室内も見れると電話では言われたのだが、とても入ってみようとは思えず、外観の写真を撮っただけで退散となった。

市街化区域なだけあって、いままで見た山間部の物件とは違って利便性はよい。駅もコンビニも歩いて行ける。ただし、まわりは古い町で隣近所も立派な家ばかりだ。ここで古民家をいじるとなると山の中のようないい加減なことはやりにくい。DIYでヨチヨチやっていると近所から物言いがつきそうだ。業者を雇えばいまどき安くないだろうし、やはり見送りか…。というか、もうすでに一軒あるのに買うつもりだったの、という話ではある。

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