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常世の国から⑩

「おいなりさん」

半信半疑だったが自分のやってることが恐ろしくなった僕は、どうすればいいのかを考えていました。

次の年の正月。
毎年欠かさずに行っている神社に初詣に行ったとき。
いつものようにお神籤を引くと、いつもは気にしない内容が妙に気になりました。
「この神籤を引いたものは稲荷を信仰せよ」
稲荷…。お稲荷さん?

神棚つくってお稲荷さんを祀る…。
僕はそうしなければならない。と思いました。

すぐにそこに売っていた神棚一式を買って、棚をつくって祀りました。
そして毎朝、榊の水を換え、米、塩、酒をお供えしました。
二拝二拍手一拝。
伝えるのは感謝の気持ち。

……でも何か変な感じがしたので、田舎に電話して聞きました。
「お稲荷さんを祀ってるんだけど、神棚あればいいんだっけ?」
「近くのお稲荷さんに聞いてあげるから」

すると神棚に入れる御魂をいれなければならないことがわかっりました。
そうか…。それまで僕はただの箱を拝んでいたということになる。
そこで初めてお稲荷さまがどんな神様かということを調べました。いつも先に動いてしまう…。
ウカノミタマノオオカミ。五穀豊穣の神様。そして商売繁盛の神様。尾っぽが稲穂のような狐がお使い。総本社は京都の伏見稲荷。

数日後、大垣というところで個展をやることになっている。京都が近い。
僕は呼ばれているような気がして、また田舎に電話しました。
「ここのお稲荷さんも、伏見から御魂をもらったんだって。伏見稲荷に行ったら、O先生を訪ねなさいって。ここからそう言われたといえば面倒見てくれるって」

そして僕は伏見稲荷へ。
お神籤を引いて二週間後である。
伏見稲荷はまだ初詣の人でごったがえしていました。

みなさんは伏見稲荷に行かれたことがありますか。僕はとても驚きました。
こんなに大きな神社は初めてです。山ひとつが神社となっている壮大な聖域です。

そうだ御魂をもらわなければ…。どこに行けばいいのか……。誰に聞けばいいのか……。お札やお守りを売っているところに神社のひとがいる。
そこで聞けばわかるはず。たくさんの並んでいる人の後ろについた。

「すみません。お稲荷さんを祀りたいのですが御魂ありますか」
「お稲荷さんは普通より御魂が大きいから、神棚も大きくないと入らないんです。今、御魂を持って来ますのでちょっとお待ちください」
と言って応対してくれたひとが奥へ引っ込んだときに「そうだO先生を探さないと…」
隣にいた別なひとに「O先生いらっしゃいますか?」と聞くと
「今、あなたが話していたのが、O先生です」
「普段はここにはいらっしゃらないのですが、今日は珍しく……」
この大きな神社で、たくさんの神官の中で初めて声をかけたのがO先生だったのです。今でも年賀状のやりとりをしています。

戻られたときに「O先生ですか?私の田舎のSのお稲荷さんから紹介されてきました」
そういうと向こうも驚き、だったら急ぎましょう。今だったら御魂を入れる御神楽ができます。と言って。御神楽のあと神棚を売っているお店まで案内してもらいました。

無事神棚に御魂を入れて祀っていました。最初に買った神棚にはいつも行ってる神社の札を入れて毎年札を替えて祀っています。

田舎のお袋に報告の電話を入れたとき、以前から言われていた祖母のことを聞いてみました。
「お婆ちゃんの夢枕で僕を生むように言った神様はどこの神様なの」
「あんた何言ってんの。お稲荷さんだよ」

神様を信仰するなど考えたことなどなかったし、宗教のことも興味はあったけど調べたこともなかった……。
このことがあってさらに自分を戒めなければと心に誓った。

ひのたろう

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