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かみや美術館(愛知県・半田市)

■「新見南吉記念館」からの…

 知多半島道路を降りて、一般道を進み、私が当初向かったのは「新見南吉記念館」でした。半田市は『ごんぎつね』の作者、新見南吉の生まれ故郷。特に彼岸花が咲く9月終わりから10月はじめは「ごんの秋祭り」と銘打って、フェスさながらの賑わい。そこら中に商売っ気たっぷりの臨時駐車場ができて、道路は観光客の自動車で混み合い、彼岸花の咲き乱れる堤防は大名行列のごとく人で溢れかえっていました。
 かなり遠くの駐車場しか空いておらず、10月と言えど夏みたいな強い日差しのもと、汗だくになってさんざん土手を歩き(みんな、好きで歩いているのですが…)、近くの喫茶店に寄れば、入り口の時点で「席に着くまで2時間待ち」と言われて退散。記念館もとんでもない人ごみで、展示物もろくすっぽ見ず、またしてもごった返す行列に交じって、ようやく車に到着。しかし、変なところで粘り強い私は、そこから新見南吉の生家へ。
 行ってみると、ひっそりとしています。そこは「財団法人かみや美術館」が管理する施設で、中に入るには予約が必要とのこと。
 ん…、美術館…?! 

■農地の丘にある美術館

美術館からの眺望
神社の小道を抜けると入り口に

 ホームページで美術館の存在を確かめたのち、開館しているかを確認するため、さっそくTEL。
「ちょっとお伺いしたいのですが、そちらは今日、開いていますか?」
「いやあ、…〇時になったら開けに行けますけど。予約制ですからね」
 予約…? おそらく南吉の家の訪問者だと勘違いされたのだと気付き、
「いえ、美術館のほうに伺いたいのですが」
「あ! それでしたら、いつでもどうぞ」
 受付の女性、やたらとパワフルだったなあ、と思いつつ出発。川沿いの堤防、広い稲作地帯を通り抜け、ナビが指示する小道に入ります。ジャスト1台分の狭い坂道をそろそろと進むと、丘の左手に見えてくる赤レンガの洋館。しかし、車はどこに停めたら…と、少し行くと神社へと続く小さな坂の手前に、案内の看板。駐車場から、のどかな道を歩いて美術館へ。先刻までの喧騒が噓のよう…。

■名品ずらり

 扉を開けると、先ほど電話で応対してくださったに違いない女性が、テンションそのままに迎えてくださいました。用意してくださったスリッパを履き、ホールを思わせる絨毯敷きの展示室へ。
 驚きました。
 洋画の千両役者たちの逸品が、ずらりと並んでいます。長谷川利行、木村忠太、熊谷守一、海老原喜之助…。さらに、海外のベルナール・ビュッフェ。
 受付にいらしたパワフルなご婦人は、こちらの財団の奥様であり、学芸員も務められているとのこと。すべての展示物の解説をしてくださいました。立て板に水の講釈。特に企画展の、版画の専門的な技法についての解説が、ありがたかったです。

■常設展

海老原喜之助『雪景』
 大きめのキャンバスに、この画家の真骨頂であるエビハラ・ブルーが、白色と鮮やかなコントラストをなしています。雪の間を蛇行する、ブルーの雪融け水の流れ。雪の美しさが水の青を際立たせ、流れの美しさが雪の白を引き立てる。キャンバスの大きさも相まって、遠くからでも目を引かれます。
 近くで見ると、小川の流れを追うように、自然と目線は上から下へ。小気味よい白と青のコントラストを無心に楽しめる、そんな作品でした。

長谷川利行『陸橋みち』
 ずっと気になっていた、この伝説の画家の絵を初めて生で見られて、嬉しかったです。荒々しく、とげとげしい生気に満ちた筆遣い。憂鬱を振り払い、殴りつけるかのような険しい躍動。

熊谷守一『最上川上流』
 守一が簡潔を極めた抽象性にたどり着く前の、具象的で爽やかな風景画。私はこちらの方が好きです。

木村忠太
 タイトルをメモするのを忘れていました…。
 部分的な具象を追っても、謎のように抽象性が残る、大胆で大きめの一枚。強烈なパッション。鮮烈な色彩。いくらでも見ていられました。この画家の絵に出会えて、本当に良かったと心から思いました。
 この大人気の画家を初めて知りましたが、他にも所蔵されているとのことで、ぜひ再訪したいという気持ちになりました。

■企画展「浜田知明 初年兵哀歌 銅版画展」

 戦争中の人間の残酷を、簡潔かつ克明に表現する連作版画。そこにある、裏の意味の”人間性”が、戦争が終わったという、ただそれだけで消失するはずもありません。我々が、その”裏の人間性”に向き合い、日々、克服の努力を重ねなければ…ということを突き付けられるようでした。

           (2022年10月訪問)

■かみや美術館・情報

〒475-0017
愛知県半田市有脇町10丁目8ー9
電話 0569-29-2626
入館料 大人500円
    小中高生300円
開館時間 10:00~16:00
休館日 火・木曜日 その他
アクセス 阿久比ICより車で10分/JR亀崎駅よりタクシー10分(徒歩30分)
http://www.kamiya-muse.or.jp/

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