朝日は来ない 第3話


○3月・海岸 昼
          香織、翔子、静(42)、沙織(84)港で船の用意をする。船に香織、静、翔子が乗る。沙織が乗ろうとした時、後ろおから村の住人がくる。    

沙織「……来よったか……」
村人1「おい非国民ども、こら一体どーゆーことだ?」
沙織「何って、こーゆー事じゃよ!」
              
    沙織、船を海へと押し入れた。
               
香織「おばぁ!!」
村人2「な、何してんだババァ!」
               
  島の男2人が船を追いかけようとする。沙織、男二人を投げ飛ばし、香織に叫んだ
               
沙織「早くこいでゆくのじゃ!」
香織「おばあ!」
沙織「なーに、私しゃこの島にいる方がしょうにあっとる」
香織「でも!それじゃあおばぁが……」
沙織「死にはしないさ、おばあは強いからのぉ」
香織「おばぁ……」
   
   本土行きの船は、古宇利島からどんどん離れていく。村の人々が沙織に襲い掛かるも、次々に薙ぎ倒される。
               
沙織「達者でな。香織」
香織「ありがとう……おばあ……」

○少年兵の本土のガマ・中 
        教官の大きな声がガマの中に響いていた。

教官「現在本土に敵襲があった!ここもそう長くは持たないだろう!お前たち、気合いを引きしめて戦いに望むように!」

        一郎、背筋を伸ばし教官を見つめる。ふと隣を見る。戸田の胸ポケットから写真がはみ出ていた。
               
一郎「教官」
教官「なんだ」
一郎「少し上の方から物音がしたので、自分が見に行ってもいいですか?」
教官「ん?そう言って逃げるつもりじゃないだろうな!貴様!」
一郎「いいえ。陸軍大佐の息子の名にかけて、そんな恥じるような真似は致しません。ただ、敵襲がそこまで来ているのなら、私が偵察に行きたく思っただけです。不安であれば、見張りにこの者を同席させていただけませんか(戸田の腕を掴む)」
教官「む、そうか。お前があの噂の陸軍大佐の息子か…素晴らしい心意気だな。行ってきなさい!」

 一郎、戸田にともに行くよう声をかけた。

戸田「どーしたの、僕を呼んで」
一郎「胸ポケットの写真。落とすよ?」
   
      一郎、写真を指さす。戸田、慌てて写真をポッケに直した。
               
戸田「このためにわざわざ呼び出したの?」
一郎「あぁ、あの教官口うるさそうだったからな。もしあの場で指摘したら、私情は捨てろとか言い出しそうだったし」
戸田「……優しいんだね。一郎くん」
一郎「そんなナヨナヨ話していたら、あの教官に目をつけられるぞ」
戸田「あっ!ごめんなさい……」

  一郎、双眼鏡で海を見る。大量のアメリカ兵の船が見える。無数の爆弾を本土めがけて打っている。
               
戸田「何を見てるの?」
一郎「軍艦の数。ここで何もせずに帰ったら、怒られるだろ?」
戸田「確かに…一郎くん凄いね」
一郎「そう?」
戸田「うん!何だろう。人の様子とか、よく見てるね?」
一郎「あぁ……実は俺の嫁さんと色々あってさ。3歳の頃、1度離れ離れになった事があるんだ…でも後悔して。お母様の言うことを破って嫁さんのところに行ったら、すっごく泣いてた。それ見た時に何が正しいのとかさ相手の思ってることの大切さとか知ったんだ。だから周りの人の様子とか、相手の本音とか、何が正しいのか見極める様になったんだ……」
戸田「へぇ…素敵なお嫁さんなんだね」
一郎「……うん。世界一の女性だよ」
   
 教官が後ろから2人を呼んだ。

一郎「遅くなり、すみません」
教官「全くだ!今まで何やってたんだ!まさか私語なんてしてないだろうな」
一郎「はい。敵艦の数と、現在の状況を把握しておりました」
教官「ふざけるな!この距離からそんなものがわかるわけが無い!」
               
 教官、一郎を殴ろうとする。一郎、割り込むように話し続けた。
               
一郎「戦艦10隻・巡洋艦9隻・駆逐艦23隻・砲艇177隻が援護射撃をしていました。敵は恐らく、6万人の兵士を上陸させ、中西部に飛行場を設けるつもりかと思われます」
教官「何をデタラメな……!」
一郎「私たちは、確かにこの目で見ました。教官がご不審に思われるのでしたら、是非、見てください」
              
   教官、再び殴ろうとする。伝達が入る。
    
伝達(声)「こちらは第3部隊。こちらは第3部隊。応答頼む」
教官「……こちら、第8部隊少年兵団」
伝達(声)「現在敵は戦艦10隻・巡洋艦9隻・駆逐艦23隻・砲艇177が援護射撃をしていました。敵は恐らく、6万人以上いると思われます」
教官「(言葉を失う)」
伝達(声)「どうされましたか?第8部隊教官」
教官「いえ、失礼します……」
    
  受話器を下ろす
   
教官「……一郎……どーやってこの情報をしった……」
戸田「教官!僕は見ていました。一郎くんは、海を見ていただけです!」
教官「…今回は見逃してやる。次があると思うなよ?」
一郎「……戸田……」
戸田「礼はいいよ。君が居なきゃ、僕も今頃殴られてた」
一郎「あぁ、わかった」

 
○1ヶ月後本土のガマ・昼
             
  戦況が激しくなる中、香織と翔子と静は、豪で座り込んでいる。爆弾の音で村人2(女)が悲
鳴が聞こえてきた。
   
香織「(祈り)一郎さん、貴方だけでも無事でいてください……」
翔子「ママ〜」
香織「翔子、どーしたの?」
翔子「まだ戦争終わらないの?」
香織「……」
翔子「私もう、こんなの嫌だよォ。お父様、帰ってきてぇ……!」
香織「……大丈夫だよ。翔子。一郎さんがきっと助けてくれる。だから、その日まで、3人で生き残りましょう?」
翔子「う、うん……」
              
  静、音も立てずに横たわった。
              
香織「静さん……?」
              
  香織、静の手を握ると冷たくなっていた。
   
香織「うそ…どーして、お母様!」
   
        香織、救命になるものを探すため、一郎の母のリュックを開けると、1週間分の食料を見つける。手紙があり、「2人で生きるのですよ」と書いてあった
              
香織「まさか……私たちのために……?」
   
  香織、恐る恐る静の顔を見る。静、笑顔で寝る。
   
香織「お母様……お母様!!」
              
      香織の涙き崩れる。
   
香織「……もう終わらせよう……」
翔子「お母様?」
香織「翔子、私達はここから出て、お父様の元へ行きましょう。もうこんな戦争、辞めさせるのです……!」

      翔子と香織、ガマからでる。目の前にはアメリカ兵が集まっている。

米兵1「コンニチハ?」

  香織、翔子を抱きしめ身構える。

米兵1「私、ウタナイ。トウコウシナサイ」

  香織、後退りするも翔子が向かっていく

香織「翔子……?」
翔子「大丈夫だよ、おばあに教えてもらったんだ」

   翔子、アメリカ兵に話しかける。手に白い貝殻を持って、赤い糸で巻き付ける。

翔子「あなたにあげる」

   アメリカ兵は不思議そうに見るも、表をつかれたように笑い始める

米兵 2「you are so crazy」

    米兵1に翔子、一郎と香織の幼い写真を見せる。

翔子「これはずっと一緒のおまじないなんだよ」

  翔子、米兵1の手を握って笑いかける。

翔子「みんな同じ苦しみも、同じ笑顔も一緒に分かり合えるお友達。だからずっと、みんな仲良く一緒にいよう」

  米兵1、言葉に詰まった後、困った顔をする。

米兵1「僕、アナタノ友達、イッパイ殺シテル。ソレデモ友達?」

  翔子、笑顔で首を縦に振る。

翔子「みんな同じだけ苦しいんだ。もういいの。だからお友達としてこれからは仲良くしようね」

     米兵1貝殻を手に、笑いかける

米兵1「I’ll definitely protect you」

   アメリカ兵は香織と翔子を囲み、安全な方へと誘導する。

翔子「あのね、米兵さん」
米兵1「何?」
翔子「パパを助けて」
米兵1「……」
○少年兵の本土のガマ・中 昼
 教官、静かに宣言する。

教官「先ほど連絡が入った。今近くのガマで民間人が襲撃にあったと……我々はもう打つ手なしだ」
   
 教官、少年兵と一郎に手爆弾を持たせる。
   
教官「せめてお国のために、名誉ある死を選ぼう」
 
    少年兵、引き金に手をかけた。次々と人がしぬ。

戸田「一郎くん」
一郎「なんだ?」

 一郎の手から手榴弾を取り上げ

戸田「君は死なないで。嫁さんにまた笑顔を向けてあげて……僕は死ぬ事を選ぶけど、君は会うべきだよ。妻に」
      
       戸田、一郎に最後に笑いかけると、爆弾を自分の口に投げ入れ、自決した。

一郎「…戸田…」
   
   一郎、怒りで武器を手にガマを出る。
   
教官「おぃ!どこへいく!」
   
 一郎、ガマを走ってでると、そこにはアメリカ兵の大軍と、妻の姿があった
   
香織「一郎!」
一郎「……!」
    
 一郎、武器を手から滑り落とす。

香織「一郎……」
              
 香織と翔子は一郎に抱き寄せた。

一郎「香織……翔子……?」
香織「はい……私と翔子で、投降したんです。ガマを出て、そしてあなたを探すようにお願いしたんですよ……」
一郎「そっか……そっか……!」
              
  3人、抱きしめあったまま、涙していた。そして、香織の手を引かれるがまま、アメリカ兵の元へと駆け寄った。
              
香織「一郎さん、もう戦わなくてもいいんですよ。軍の元で、3人なら生きていけますよ……これからもずっと」
一郎「あぁ。」
   
  教官、香織に銃を向けて、発泡。銃弾は香織の胸を貫通した。香織、横たわる。

一郎「香織!!」

#創作大賞2023

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