新宿随筆

 晴れた朝、枝草刈り以下略、便所と部屋掃除、総武線で新宿へ。
 お出かけ日和も甚だく、粘りを見せる桜と青空のコントラスト。
 電車内。四ツ谷駅に到着し、ホームの最寄り施設の案内に『上智大学』があった。高卒の私にとってまったく縁のない名門大学である。一度、あるイベントで中央大学のキャンパスに行ったことはあるが、大学と接点がない。
 学歴コンプレックスは、強烈ではないにしろ、全くないと言ったら嘘になる。結果的に稼いでしまえば学歴は関係ないと言えるが、あったらあったで得はあれど損はない。
 学歴は環境の差はあるが、努力の証である。
 労働者として生きる人がほとんどである以上、就職の幅、資格取得の必要条件または緩和、人脈、社会的信用など、間違いなくあった方が有利だ。
 電車のドアが開いていた一時。
『上智大学』という文字は煌々と輝いていた。閉口。
 そして、新宿駅に到着。
 新宿バルト9でチケットの発券、パンフレット(赤と緑の水玉模様)を購入。エレベーターで上下移動する私。早歩きで朝食兼昼食に向かう。
 脳死で沖縄料理やんばる、ラフティ丼セットを咀嚼後、食道を通過、胃から腸へ。時間は午前11時15分。予定通り。
 紀伊國屋書店・新宿本店へ帰還。
 やはり、ここが私のホームである。
 買うものは決定している。新潮文庫のコーナーへ行き、安倍公房先生の未購入作品かを確認しつつ、乱丁(僅かなダメージも含む)はないか検品しつつ、緑のカゴに入れていく。西村賢太氏関連も1冊加える。
 会計を済ます。まだ予算が余っている。町田康先生の『くるぶし』の青地に緑文字の美しい装丁に目が魅かれるが、心を落ち着けて、他に目をやる。
 と、それはあった。明日の週刊「我がヂレンマ」でも紹介するが、都合上フライングして書いてしまおう。
 それは、寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』の初版復刻版、没後40年記念である。ポップには「今後、復刊しないかも――再入荷はない」的なことが書いてあった。
 買うしかない。透明なビニールで梱包された、ソレをレジへもっていく。
300円ほど予算をオーバーしたが関係ない。これを逃したら次は文庫版しかないのだ。買う予定に全くなかったが、これこそリアル店舗でこそ存在する「出会い」である。興奮と感謝を胸に、新宿バルト9に戻る。
『Dolby CINEMA』と白い文字、奥の通路のスクリーンには名探偵コナンは輝いている。だが暗い(若干の不満)。待機。
 時間まで今日のnoteの為、愛用のリングノートに内容に関するメモを走らせる。しばらくして、ペプシLサイズを購入し、シアター4へ。
『毒娘』上映開始。終了。
【あらすじ】
 深瀬萩乃(佐津川愛美)は家庭に恵まれない女性だったが、今の夫・篤紘(竹財輝之助)と結婚し、その連れ子・萌花(植原星空)の3人で中古の一軒家に引っ越してきて、幸せな家庭生活を送っていた。
 そんなある日、外出中の萩乃に萌花から助けを求める悲痛な声の電話がかかってくる。萩乃は慌てて帰宅するが、そこは大きな鋏を握りしめた見知らぬ少女が萌花に馬乗りになっている姿があった。
 室内は酷く荒らされており、萌花の服もずたずたに切り裂かれている。
 謎の少女は「ちーちゃん(伊礼姫奈)」といい、以前この家で暮らしていたが、ある事件を起こして町を去ったはずだった。
 彼女の出現が、一見幸せに見えた萩乃たち家族が無意識に押し隠そうとしていた「毒」を晒されていき、悪夢のような日々が始まる。
 
 2011年にインターネットの匿名掲示板で話題になった、ある新婚家庭の出来事をモチーフとしたオリジナル脚本。
「ちーちゃん」のキャラクターデザインは『漂流ネットカフェ』『悪の華』『血の轍』の漫画家、押見修造先生。
 感想。
 予告編ではB級映画感があったが、蓋を開けてみれば、エリートの夫に抑圧され、自身の育ちから意志を押し殺し抑圧された妻、実の母の死を巡って父親との関係に溝のある女子中学生。
 一見して幸福な家庭に見えて、苦悩やズレを抱えている姿をホラースリラーという形で、しっかりと描いている。
 押見修造先生デザインの「ちーちゃん」は軍物のパーカを赤く染め、赤と白のストライプのジャージ、昆虫のブローチというスタイリッシュかつ不気味なスタイル。怖い、格好イイ、そして可愛い。
「ちーちゃん」が、徐々に、家族の秘密を晒していくと同時に、萌花を自分側に染めていく。無邪気な悪意に満ちた、人間離れした存在感に目が離せない。R15でバイオレンスもありますが、おススメです。
 
 上映終了後、いつもように脱兎が如く新宿駅に向かい、総武線に乗り込み千葉方面へ。
 帰宅後、さっそく購入した書籍を本棚に並び組み替える。
 そして、今に至る。ノートパソコンと服がかけられたラックを挟んで、学習机の上の本棚の上段に、銀色の背表紙が並んでいる。
「安倍公房作品」である。おそらく今日で文庫はコンプリート。
 今後は西村賢太&安倍公房の併読マラソンに突入する。
 それが自作に好影響を及ぼすかどうかは、今後次第。
 そろそろ風呂が焚ける。今日の夕餉はシラス御飯。ネットサーフィンと読書で夜が更けていく。
 嗚呼。収入における書籍の購入額の割合がエグイ。安倍公房作品が揃ったいま、来週以降は購入点数が減るだろう。
 それはそうと、いい加減、風呂が焚ける。了。
 
 

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