宇宙流し

 或る惑星から放たれた小型監獄船が、宇宙空間で弧を描いた。程なくスピードを上げて、遥か彼方へ飛んでいった。
 一人で乗船しているケイは、出発前の役人の説明を反芻する。

『端的に言って、宇宙(ソラ)流しだ。これは実験的な措置で、君は本来、三年後に死刑執行だが、情状酌量の余地があるとみてこうなったわけだ』
『まず一年分の食糧と、生活雑貨が積載されている。今後十年、年に一度、補給船がやってくる。その後はやってこない』
『補給船を襲えば、その場で射殺、または、監獄船の爆破だ』
『自殺用のピルも、用意されている』

 というわけで壁一面に、広大な銀河があった。
 監獄というわりには、センスある部屋だ。星々を横目に、頭の方向に壁があり、足元にローテーブルがあった。他は倉庫、バスルーム、トイレ、キッチン、補給船との連結用通用口、二階は運動などの多目的スペースがあった。エネルギー節約のため、室内は常時うす暗い。
 ここでひたすら、10年間暮らすことになる。
 そして、食料が尽きて、死ぬ。
 ケイはベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。
「まぁ、気楽なもんだ」
 何せ、左側に体を傾ければ、広大な宇宙が広がっている。圧倒的な静謐はなんともいえず、深遠を漂わせていた。
 そのなかで、自分が犯した罪を思いだす。
 根が短気でプライドが高い俺は、ついカッとなって兄貴分と、その弟分を射殺してしまった。普段から横暴な上、俺の女を強姦した。
 我慢ならなかった。
 気がづけば、血だらけの兄貴分が横たわっていた。
 特に後悔はない。
 犯行事実はすべて素直に認めた。それが功を奏したのか、今、宇宙空間で漂流しているわけだ。
 それにしても、美しい。
 殺伐とした地球の日々を想えば、これはこれでよかった。
 何せ、あまりに静かなんだから。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?