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「フーテンのトラさん」11(出発)

「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語


前回はこちら


「流石はタキさんね。」
「それでどうなったの?」
「コムギちゃんのおうちは見つかったの?」

「乗り掛かった舟だからよ、その子のうち探しにはもちろん付き合ってやったぜ。」

「流石ね、トラさん。」
「その時のお話し、早く聞かせて!」

(4話連続シリーズの3話目です)



出発


次の日の朝、モミジはちゃんと縁の下で待っていた。

「お嬢ちゃん、よく眠れたかい?」

「はい。」

「それは良かった。まずは港へ行って腹ごしらえだ。」
「ついて来な。」

港では『赤い長靴』がみんなに魚を配っていた。

お魚、いただくぜぃ!


「おーい、赤い長靴!」
「このお嬢ちゃんにも魚をやってくれねぇか。」

「おっ?見かけない顔だね。」
「なに、なに?、お前の彼女か?」
「まったく、お前も隅に置けない奴だなぁ。」

「ほら、その子にも分けてやりな。」

赤い長靴はニヤニヤしながら魚を二匹投げてよこしてくれた。
何だか誤解してるみたいだが・・・
まぁいいや。

「ほら、新鮮な魚はうまいぜ。」
「しっかり食っとかないと、しばらく食い物にありつけないかもしれないからな。」
「とっとと食っちまって出発しようぜ。」

* * *

「腹ごしらえも済んだし、そろそろ出発するか。」
「おっと、その前にタキさんに挨拶に行かないとな。」

こうして俺達はタキさんに挨拶をしてから出発することにした。

タキさん(本名:瀧三


「おはよう、タキさん。」
「これから行ってくるわ。」

「おう、トラよ。」
「お嬢さんはお前がしっかり守ってやるんだよ。」

「分かってるよ、タキさん。」
「それじゃ、ちょっくら行ってくるわ。」

「気を付けるんだぞ。」
「お嬢さんもな。」
「こう見えて、このトラはなかなか頼りになるから安心して行くといいよ。」

「タキさん、ありがとうございました。」
「行ってきます。」

こうして俺とコムギの旅は始まったのである。


* * *

さてと、
行く場所の見当はついてるんだが・・・
どうやってそこへ行くかだな。

街中は危険だし、因縁をつけてくる奴も多いだろうから避けた方がいいな。
特にコムギは街中を歩くのは慣れていないからな。

となると、海岸線沿いに川まで行くのが良いだろう。
温泉はその川の上流だってタキさんが言ってたからな。

俺たちはしばらく堤防沿いに歩いて行った。

堤防が途切れてからは海沿いの道路を歩いて川まで行ったんだ。
その道路はそんなに車も通らないからコムギでも安全だしな。

そうして昼頃には川に辿りつくことができた。

河原は広くて見晴らしが良く、遠くまで見渡せた。
ガラの悪そうな奴も見かけなかったので、

「疲れただろう、お嬢ちゃん。」
「川の水でも飲んで少し休んでいこうか。」

コムギは長い距離を歩くのに慣れていないからな。
少し休んでからまた出発することにした。

それから30分程歩いた時かな、
少し前の草の陰に、うずくまっている白い猫がいたんだ。

「お嬢ちゃん。」
「ちょっとの間、この草の陰に隠れていてくれるか?」
「俺が行って様子を見てくるからよ。」

「分かったわ。」
「トラさん、気を付けてね。」

俺はコムギをおいて、そいつの所へゆっくり近づいて行ったんだ。

近づいていっても目をつぶったままじっとしている・・・。
良く見ると、少し歳を食っている爺さん猫だった。

何だか具合が悪そうだな。
「おい、大丈夫か?」
俺は心配になって声をかけた。

すると、ようやく薄目を開けて、

「俺か?」
「大丈夫、ただの風邪だよ。」
「2、3日したら直(じき)に良くなるさ。」

「そうかい、気を付けるんだぞ。」

「お前さんもな。」

その爺さん猫はそう言うと、また目をつぶってしまった。
特に荒くれ者でもなさそうだ。

俺はコムギの所へ戻って、

「大丈夫だ。」
「風邪をひいて養生しているんだそうだ。」
「寒くなるとな、俺たちの間では風邪が流行るんだよ。」
「いわゆる『ネコ風邪』ってやつさ。」

「ネコ風邪って、あんなふうに目がウルウルしてお鼻も出るのね。」

「ああ、あれはまだマシな方だ。」
「ひどくなると口内炎で口の中が痛くて物が食えなくなるんだぜ。」

つっ、辛い・・・

風邪とはいえ、ひどくなると大変なのである


「話には聞いたことがあるわ。」
「私はね、おうちの人に動物病院へ連れて行かれて、『ワクチン』っていうのをうたれたの。」
「そう言えば、その時に『ネコ風邪にかからないように予防しましょうね』ってお母さんが言ってたわ。」

「へぇ、お嬢ちゃんはやっぱり箱入り娘なんだな。」
「まぁいいや、先を急ぐぜ。」

それから5分程歩いたかな、川の水が流れ込んでいる水たまりがあったんだ。
見てみるとよ、魚がうじゃうじゃいるじゃねぇか。
この水たまりだったら俺達でも安全に魚が捕れるな。

「お嬢ちゃん、ラッキーだな。メシにありつけそうだ。」
「食える時に食っとかないとな。」

俺達はその魚を捕って食った。

その時、ふとあの爺さん猫を思い出しちまったんだ。
ただの風邪って言っても栄養をつけないと治るもんも治らねぇしな。

「お嬢ちゃん、ちょっと待っててくれるか?」
「ちょっくらあの爺さんに魚を持っていってやるからよ。」

俺は魚をくわえてあの爺さん猫の所へと急いだ。

「んっ?」
「何だ、またお前か。」

俺はくわえていた魚を爺さんの前に置いてやった。

「栄養をつけないと治らねぇぞ。」
「これでも食いな。」

「いいのか?」
「ありがとよ。」

爺さんはゆっくりと魚を食い始めた。

メシが食えるんだったら大丈夫だな。
これでこの爺さんも安心だ。

俺は急いでコムギの所へ戻った。

それから俺たちは日が暮れるまで歩いた。
そこで、ちょうどいい寝床を見つけたのでその日は休むことにしたんだ。

このままいけば、明日の夕方までにはコムギのうちがある町に着くだろう。

つづく









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