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【詩】脚本

桜はいつだって満開で
僕の春に美しい演出を加える

隣を歩くのは君で 
新車の助手席で笑うのも君

電話の相手は君で
休日の予定が君で埋まる

僕の人生にこんな描写があるのは
僅か数ページ 
こんな描写 僕のありのままじゃない。


本当は春になんて気づかないうちに 
道路には踏まれた花弁が散らばっているし

僕の日常は倍速再生で 
中古車の助手席には
読み飽きた雑誌が散らかっている

喧嘩別れした君へ
「ごめん」のメールも送れずに 
ただ時間だけが過ぎた

本当は全然やりきれない 
本当はスポットライトを当てる場面もない
こんな描写演じるだけ無駄かな

でもさ 
全てが他人の脚本通りじゃつまらないだろう

だから 
僕が僕だけの脚本家になってやる
僕にしか描けないリアリティ

価値とか意味とか 
そんな難しいこと 考えなくたってもいいや

この脚本の観客は、僕だ。
観る人が読む人が
その人なりの評価をするように 
僕が描いたものを 僕自身が評価しよう

だから捉え直すんだ

花が散れば葉桜に。 
でもそれはたぶん深緑の夏を知らせる便り。

僕の日常を等速再生に戻すなら 
ほんの少し彩りを加えてみようか 
それはたとえば 
懐かしい街まで車で行こうとか
恩師には手紙を出そうとか

 そういう具合に。


そしてその道の途中、思い立って
また君を迎えに行くんだ、なんて。


ありきたりかな。 少し不器用かな。

 でもこれでいいや。

 僕にとってはこの演出が アカデミー賞

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