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青春書道室

教育実習も最終日の放課後。私は高校の書道室にいる。すぐ隣が何故か軽音部の部室で壁一枚を隔て、静寂であるべき空間に彼らの爆音が否応なく響いている。

ちなみに私は書道とは縁もゆかりもない。生粋の吹奏楽部員で字なんてめちゃくちゃ汚い。人生で一番嫌いだった宿題は「書き初め」である。プリントに名前を書き忘れる度に「これ誰の?絶対男子でしょ!」と言われていた。もう10年も前の話だ。

ブラインドの隙間から西日が差し込む散らかった書道室の床で、三人の部員が黙々と何かを書いている。私には「何か凄いもの」にしか見えない。無知で申し訳ない。すごいなぁと思いながら何となく眺めていたら目が合ってしまった。名前も知らない二年生の女の子。読めないけど、すごい何かを書いている。気に入らなかったようですぐに丸めてしまった。

「あのお手本、私が書いたんですよ」と一個下の書道科の実習生が耳打ちしてくれる。私を書道室に誘ってくれたのは彼女だ。

散らかった広い部屋で、部員が五人、思い思いのものを書いている。書いては何かを考え込んで、また書く。私には見えていない何かに真剣に取り組んでいる。隣では実習生の彼女が美しい小さな字を敷き詰めて実習日誌を書いている。私なんて大きな汚い字を書き殴っていたというのに。

場違いな音楽に紛れる半紙の擦れる音。でも流石全国大会レベル、ちゃんとBGMとして機能しているからこそ感じる、このエモさ。

「動」の青春と「静」の青春。両極端の青春がまさかこの書道室で共存しているとは、在学中は知らなかった。

実習生の彼女がこちらを見ている。手が疲れたらしい。一人が書けないと小さく嘆くと隣で書いている生徒が励ます。

隣の歌声に益々力が入った。いよいよ曲のクライマックスらしい。

高校生っていいな。
みんな素敵ですよ。自分たちが思っている以上に。



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