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第78回 歴史総合「現代的な諸課題の形成と展望」を通して“エージェンシー”の育成(「歴史総合」研究チーム)

 第78回は「『現代的な諸課題の形成と展望』を通して“エージェンシー”の育成」というテーマでお話しいただきました。エージェンシーとは「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」です。報告者は日頃から歴史総合の授業において「自国や他国の文化を尊重し、現代的な諸課題解決に向けた方策を構想したり発信できる力を育てたい」という思いをもっておられますが、それは言いっ放しのものではなくて「自らの考えに責任をもって発信することができる力」が必要であるということでした。また、探究学習を取り入れても仲間内での発表だとマンネリ化してしまうことに課題も感じられていたそうです。そこで、エージェンシーを意識した「全ガチ」の課題を設定し、近隣中学校の協力を得て、1年間の成果を中学生に発信するという実践をされました。課題は「現代社会が抱えていると考える課題はどのような歴史的経緯によって形成され、また、その解決のために私たちに何ができるか」です。中学生への発表会はZoomのブレイクアウトルームを利用した分科会形式で行われ、実践後の中学校では、クラスの枠を超えて議論する様子が見られたり、自分もこのような取り組みをやってみたいという声があったり好評だったようです。高校側でも、中学生の評価に手応えを感じたり、反省点を見つけたりと多くの学びがありました。(『月刊高校教育』6・7月号や清水書院発行の実践本8月号で掲載)

― 質疑応答 ―
・「真正」の学びとはどういうものか。先生自身はどういう生徒を育てたいと考えているか。責任ある発信とは?社会を引っ張っていくのであれば、学力上位層の中学校を対象とするのではなく、もっと多様な層の中学生にどうアプローチするかではないのか。 →将来の世の中を引っ張っていける子どもたちを育てたい。ツテがあった中学校で実践してみたが、多様な層にどう発信できるかは重要。同じ学校の同じ教室の生徒への発信ではない環境をつくりたかったが、今後も相手や発信の仕方は考えていく必要がある。
・限られた時間の中で、歴史総合の最後まで内容を網羅されてることに感心している。その中で、責任ある行動がどこまで突き詰められたのか。生徒たちが扱った課題のスケールはどのようなものだったのか。 →個人レベルで身の回りの解決策(例えば格差問題で募金の機会があることを提示)を発表している生徒もいれば、政府間の交渉の理想などレベルは様々。ただ、大きな話になると実現可能性が低くなって、そこを指摘されていることが多かった。個人レベルに上手く課題を落とし込めている発表はわかりやすかったのか、評価は高かった。そこを参考に今年度は指導していきたい。
・11クラスを5人で担当されているようだが、それぞれの担当者にどの程度自由度があるのか →年間の進度(足並みをそろえやすい教科書の選定)は担当者間で合わせる。評価に関しても何をどれぐらいの割合で扱うか決めたうえで、内容は担当者の裁量(レポート、調べ学習、中学生に向けた発表など)。
・歴史科目と「真正」がどうつながるのか。歴史ならではの視点はあるのか? →今我々が生きている世界の背景、現在の課題を時間軸から考えていくのが歴史。生徒のつくったスライドからもその部分はできていたのではないかと思っている。

― 議論「学ぶ内容を自分ごとにするために工夫している点」「調べる、まとめる、伝えるなどの活動を取り入れるうえで重視してることは?」 ―
・生徒の成果物に対する先生の評価(歴史総合で身につけるエージェンシーの育成ができていたかなど)をもう少し聞きたかった。→どこまで育まれたか、どう伸ばしていくかを生徒の成果物をもっと緻密にみなければならないという課題を感じた。
・報告者の実践では、近代化、大衆化の項目でも生徒自身が課題を選ぶ練習をしている。グローバル化でその集大成とすることができたのだと思う。すべての生徒の興味を惹くテーマはない。だから自分が探究したいことを自分で選ばせることは重要。
・「歴史を学ぶ意味」を問うことで歴史固有の現代的諸課題を学べるのではないか。
・歴史教育の真正性は何か?社会科という科目自体が問題解決学習の姿。自分の身の回りの課題解決に学習が生きるのが本来の社会科のあり方。歴史総合の科目の構造が真正性を大事にしたものになっているかな。
・ゴールを見据えて単元を一年間つくられてるのは素晴らしい。個人レベルを大事にしすぎて「私たち」が選んできた社会が個人に閉じられてしまっていないか。社会システムの問題や集団的意思決定、社会階層に「気づく」ことでより真正性に近づく。
・歴史総合の学びだけで課題解決の構想ができるのか。グローバルな課題の解決には他科目、他教科の知識も必要。
・中学生に向けたプレゼンに生徒たちのどんな思いが込められたのか知りたい。「小学生向けの教科書をつくる」などの実践もある。
・高校生が中学生に伝えるという学びの実践は大事。そこに主体的で深い学びがある。自分以外の人に自分の考えをわかりやすく伝えるためには自分で再構成しないとできない。自分でどんなふうに考えていったかが次のモチベーションにつながる。


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