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第104回 「公共の授業で社会を生き抜く力をどう育むか」(「公共」研究チーム)

第104回は「公共の授業で社会を生き抜く力をどう育むか」というタイトルで発表していただきました。報告者の先生は「授業を見学させてください!」と他校の先生に突然連絡したり、様々な勉強会に参加したりと熱心に取り組まれている方です。定時制工業高校に勤務されていて、目指すのは”将来損をしない”授業。社会の制度を知ること、社会と繋がること、を大事にされています。生徒たちが公共の授業を通して少しでも社会に参加しようという態度を育めたらと取り組まれているそうです。クラスには中学時に不登校だった生徒や発達障がいの生徒、外国籍の生徒も数人いて、ふりがなをふったプリントを準備したり、Google翻訳を使って理解しています。ほとんどの生徒が卒業後就職する状況で、どうすれば社会で生き抜く力をもって卒業していけるかがテーマです。単元のはじめにアンケートをとって、興味がありそうな内容や生徒の生活に直結する内容を重点的に扱っているそうです。アルバイトをしている生徒も多いので、お金の話を重点的にしますが、胡散臭くならないようにとファイナンシャルプランナーの資格までとったとか。誰もが発言できるようにするために身近な内容を扱う、ペアワークやグループワークを頻繁に入れる、数字を扱う(円高・円安の理解など)ときはできるだけ簡単な数字に置き換える、実物を利用する(投票箱や投票用紙を借りる)等工夫されています。授業内容だけでなく、ファイルを渡してプリント整理も指導し、生徒自身が一年間の自分の成果を実感できるようにしたり、それぞれにいい表情を意識させて発言しやすい雰囲気をつくったりと目の前の生徒に即した指導を心がけておられるのが印象的でした。2学期に取り組んだ株式学習ゲームは、ゲームを通して株価と政治が密接に関わっていること、株が簡単に儲かるものではないと理解できたことなど生徒がただゲームで勝敗を決めることに一生懸命になるだけでなく、多くの気付きがあったことに手応えを感じておられるようでした。ただただ笑えるファンではない、知的好奇心をくすぐられるようなインタレスティングがある授業をめざして努力されています。

ー 質疑応答 ー
・”損をしない”というのは現社会制度に適応していくイメージなのか。先生が生徒にどんな社会をつくってほしいかを教えてほしい。→”損をしない”の中身で大事にしているのは”社会がわかる”というところ。生徒につくってほしい社会はおもしろく生きられる社会。物価上昇に給料が追いついていないとか、自殺とか、高校生が希望を見出しにくいニュースが流れる中で、人とコミュニケーションをとりながら人に愛されて人と協働することに喜びを見つけられる人になってほしい。自分が中心となって社会を動かし変えていけるのは素晴らしいけれど、実際は社会を支える一員として貢献していくことが多いなかで、例えば時給〇〇円の中にどんな価値見いだせるか。人に感謝されたり、人を喜ばせている実感を持てたり、その上で自分も幸せを感じたり。そのためには社会の動向を少しでも知っておもしろく解釈し、好きなことをやってほしい。そんな社会を築いてほしいと思う。
・社会の中である意味犠牲になって苦しんでいる層への視点はどう扱っているか?→定時制高校に来る求人は一部を除くと低賃金で昇給が望めそうにないものも多く、厳しい現状が待っている。そこで、選挙で投票することが何に繋がるのか、労働組合がどんな働きをしているかなどを紹介して団結しないと社会を変えたり、苦しさから脱却できないことを伝えている。社会制度や法律を絡ませて、今すぐ利用しなくても、本当に苦しい状況に陥ったら様々な制度があることを理解させ、授業の中で実際に検索したり聞いたりしながらどう進めていくか、利用方法も授業で取り上げるようにしている。
・多様な高校生がいるなかで、先生自身が授業の実践を通して感じた手応えや悩みは何か?→教師1年目に勤めた学校は3人の先生が進度をや内容を揃えながら授業を展開していくスタイルだったので、生徒にしってほしいこととしなければならないことのギャップを感じていたが、現在勤めている学校は受験の制約がなくなってこともあって、生徒のニーズに対応できるようになった。目の前の生徒に必要なことから逆算して授業を組み立てられるようになり、そうすると興味を持って聞いている生徒も出てきて、手応えを感じている。ペアワークやグループワークも「この子らには無理だ」と切り捨てるのではなく、1年生のうちから何度も機会をもつことでできるようになったり成長が見られるところも手応えを感じている部分。外国籍の子や文字の読み書きができない子は個別対応が理想ではあるが、自分が全員を個別に対応するのは難しく、グループワークなどでクラスメートに助けてもらうのが有効だと考えている。しかし、協力的でない帝都がいたり、本当に自分たちで進められないグループができたり、というのが悩み。外国籍の生徒はネパールの子が多い。おそらく外国人コミュニティの中で定時制高校に入ってなんとかやれているという情報が伝われば、次の入学生に外国籍の生徒が多くなったりする。
・定義がわかりにくい。年間の見通しが若干甘いように思える。学習指導要領等の資料を読み込み、しっかり定義して年度末にここまでになってほしいというのが見えたら、授業の作り方も変わり、先生と生徒の関係もさらに変化していって授業がより楽しくなる。
①低学力とは?
②おもしろい授業を心がけたいのは伝わるが、どういう場面でどういう構成にしたらどういうインタレスティングが生徒に生まれると考えるのか?
③評価の仕方の根拠は?一応文科省の基準があるのでそれをどの程度見てどの程度先生のアレンジが入っているのか。
④損にならない授業とは?株式学習ゲームは資本金1000万円からのスタートするが実際はその資金を調達するのが難しい。選挙で内閣総理大臣を直接選べないから政治が変わらないというジレンマもある。生徒の身近なこと扱う割には現実とかけ離れた設定になっていることについてどう考えているか。
→①低学力については「読解力がない」「読み書きができない」と考えている。指示を理解して行動することができない。作文等の提出物の読み取りが困難で、本人に何が言いたかったのか聞くと自分でも何を書いたのかわからない状態。
②インタレスティングは、ただ笑えるファンではなくて、「ああなるほど」って思える内容と捉えている。『池上彰のなるほどニュース』『チコちゃんに叱られる!』など、「なぜ」を深堀りして勉強していく。社会が好きでなかった人でも学び直したいと思えるきっかけになるような。自ら勉強しようと思えるものをインタレスティングと考えている。
③評価については自分はかなり甘いと思っている。参考資料もみたが、やはりペーパーテストがベースになり、提出物の記述量や授業中の取り組みを考慮する形になっているので資料とのズレはあると思っている。
④設定が現実的でないなどは自覚しており、それを踏まえて話をしているつもり。株式学習ゲームは実際にお金を動かせないと体験ができないので、1000万円はなかなか稼げないということも伝えている。ディベートなどを取り入れる中で、支持率低くてもなぜ総理大臣でいられるのか、という生徒の声もあった。だからもっとやりようはあったと思うが、どうすれば現実的な課題を考えられるようになるか、みなさんの知恵をお借りしたい部分でもある。

ー 以下議論(生徒じ実態に合わせた工夫、自分の授業が社会で役立っていると感じた場面、授業に便利なツール) ー
・特に受験に必要のない生徒の興味を惹くのは大変。ゲーム性の高い教材を取り入れるなど工夫をしてみるが投げ込み教材になってしまった感がある。
・生徒や学校の特性から、発問に対して挙手を求めたり、当てて答えさせることが制限される場面もあり、生徒と会話しながら、生徒との会話を聞かせながら授業を進めるなどの工夫が必要になる。
・”損をする、所得が低い=幸福度が低い”という前提があるのではないか。ある力を身に付けさせようとするとき、教師はその生徒たちを一定の層に位置づけてしまっていないか。例えばセーフティーネットに関する知識を扱うことは、その生徒がその制度を必要とする層にあると暗黙のうちに位置づけている。それをどれほど自覚できているのか。
・最近の生徒の特徴はやんちゃな生徒より、コミュニケーションが苦手な生徒が多い。授業で当てたら固まってしまって返事すらできないこともある。グループワークやペアワークを取り入れながら時事ネタを扱い、自分の意見も言えるようになっていくのがすごいし、大切なことだと思う。
・”なぜこの授業をしないといけないのか”を最初に伝えてからスタートしなければならない。
・導入に工夫を凝らして生徒に興味をもたせるようにする。
・現代の諸課題を踏まえながら、なぜこの授業をここで扱うのかしっかり伝える。
・単元ごとに学習するが、構造的に考えると似たような事例は多い。それを発見でき、理解できる授業がしたい
・かわいそうなど生徒の感情だけで終わらず、どうしたら解決できるか、自分がどう動くかまで踏み込める授業をめざしたい。

・社会はそんなに悪いものではないし、社会が変えられるものであることを勉強するのはとても大事。ただ、安易に選挙に解決策を求めてはいけない。外国籍の生徒に配慮が必要。本当に教室にいる生徒が声を上げるにはどうしたらいいかをみんなで考えるともっと面白いかもしれない。
・目の前の生徒をよくみており、強い情熱も伝わる実践報告で素晴らしい。教室にいる子どもたち自体が社会課題の集積。なぜネパール国籍の生徒がいるのか、なぜ低賃金の求人が多いのか、そんなところに気づいてどんどん引っ張っていけたらよい。
・教科書中心に授業が進められることは多い。しかし、それができない現実に直面したときにどうするか、やっぱり生徒に寄り添わなければならない。外国籍の生徒が多いなら、社会の中で彼らが生きているその現実に合わせて教育をつくっていかなければならない。いろんなバックグラウンドをもった人たちが日本社会をつくっていることを頭において、教室も多様な生徒で成りたっていることを知ったときに今日の発表を参考に何かを考えてほしい。

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