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第97回 「日常と非日常の狭間で」(歴史総合研究チーム)

第97回は「日常と非日常の狭間で」というテーマで発表していただきました。報告者の先生は新聞記者の経験もあるそうです。日頃から大切にされていることは生徒の意見を大切にして授業を構成すること。自分と異なる立場の人を思いやれること。社会とのつながりをもてること。授業を通して、質問する力をつけ、人の役に立つ経験を重ね、「人の役に立ちたい」という思いをもって社会で活躍する人になって欲しいという思いをもっておられるということでした。非日常的取り組みとして、歴史の授業では、人形を使って国を擬人化し国際関係を「見える化」したり、フィンランドの福祉政策を学習する際には現地の友人と繋いで教科書からは見えない問題点を聞き、リアルに迫るような工夫をされています。探究の授業で「学校のトイレを様式化したい」と取り組んだ生徒たちが市議会議員に働きかけて実現したというお話も印象的でした。日常的に意識されていることは、生徒の意見をできる限り板書して可視化し、検証して、必要があれば訂正すること。間違えることが悪いことではないと示しておられます。ユーチューブなど使えるものは何でも取り入れることも大切にされています。また、グループでスライドを作成し、発表するというというスタイルで生徒が自ら学ぶ、協働して学ぶことを実践されていました。生徒の反応に、「授業の終わりに先生のまとめがほしい。」「アドバイスがあると良い」というものがいくつかあり、学ぶのが楽しかったり生徒たちが意欲的に取り組んでくれる一方で、できた実感、わかった実感をもたせられることが今後の課題となっているそうです。

ー 質疑応答 ―
・授業のまとめとして先生の解説や説明を生徒が求めるのはなぜか。
 →自分事になっていたら教師のフィードバックは必要ないと思うが、生徒たちの中で、「本当にこれでいいのか?」という不安や自信のなさがある。「この感じでいいね」という教師の一言が欲しかったのかもしれない。生徒間で完結するのが理想だが、言葉を減らしすぎたかもしれない。
・中学の歴史分野と高校の歴史総合は何が違うのか。
 →高校では、中学では触れなかった視点で歴史を考える。例えば江戸時代(鎖国)でも貿易や他国との交流、朝鮮通信使をきちんとおさえるなど。
 →高校の歴史総合は、中学で培った通史的な軸と現代的諸課題の軸、私たちの軸、この3つの軸を時間・空間のスケールを操りながら往復するイメージ。中学の学びが歴史総合の土台になっているが、中学の学習で現代的諸課題と歴史がどれほど繋がっているのだろう。

ー 以下議論(非日常の実践と日常で意識していること)ー
・非日常として、自分の専門分野(社会学を学ばれていた先生の例)について本を活用しながら授業で取り上げたことがある。また、普段と違う方法で(例えばジグゾー法を用いる)授業を行う。そうすると生徒は興味をもったり関心を持って取り組んでいるように思えた。
・日常で意識していることは、1コマにストーリー性をもたせること。どこに向かって授業が進んでいるかを生徒がわかるように意識している。解釈が複数ある事項については決めてしまわない。一度獲得した見方・考え方を継続して使っていけるように、1コマの授業をプリント1枚に収められるように量的な事も考えている。
・非日常としてはビジネスプランづくりの授業。リアリティのある現実で実現可能なものを考えさせる。その際に、小さなことでも褒めていきながら生徒にやる気を出してもらうが、肝心なところでは、例えば自分たちのプランが社会に受け入れられるとは限らないなどを示していきながら生徒とともに考えるのは日常で意識していること。
・普段から身近な事例とグローバルな事例をつなげることを意識した実践を行う。冷戦の状況を当時の指導者の考え方などを含めて学びながら社会について考えるなど。
・情報過多の時代なので、あえて目を瞑らせ、先生の話だけを聞きながら想像力を換気し、身近な事例と社会を繋げるような実践。
・実物を授業の中で紹介する。綿や繭、ヒエログリフのシールなど。それを活用して考えると非日常になって生徒の食いつきはよい。
・生徒が自らスライドを作って発表する実践。生徒自身が予想問題もつくる。生徒たち自身で進めた授業が定期考査などに十分対応できる内容になっている。ただ、共同で作ったスライドは個人を評価しにくいので、Googleフォームなどでどんな学びがあったかなどをコメントを評価するようにしている。
・公共の授業実践は最近日常的に現代の問題を深めてどうしたらいいかを生徒に投げかけるスタイル。生徒の意見はまだ浅いのでさらに追求し、「ほら難しいでしょ」ということを繰り返す。
・自分が生きてきた経験、これまでの学習で培った知識が生徒の日常だとすると高校の授業はこれまでと違う視点が求められる非日常。教員が工夫して生徒が追求したくなるような仕掛けを取り入れる。こうして生徒の日常と非日常をつなげるのが教師の仕事。
・パフォーマンス課題などを刺激剤としてすることはよくあるが、それが目的になってはいけない。それを通して子どもたちにどんな力をつけたいかが大切。
・新聞記者の経験は授業や教材づくりで役に立っている感覚はあるのか。
 →文章を書いてきたので、指導案や報告書類は短時間でできる。生徒の文章を読んだり、要点をまとめたりするときも経験が活かされていると実感できる。生徒会新聞に見出しをつけることも。
 →取材する力は教材研究に通じるものがある。地域の産業を調べて農家の方に取材をしたり、酒造見学に行ったり。学校現場では小学校の先生のほうがそういう方面に強いイメージ。校種を超えて授業見学や研究会に参加する必要性を感じる。
・小学校、中学校で子どもたちはどんな経験をしているのか、他教科ではどんな学びかを頭の中に置いておくとよい。地理・歴史・公民で違うところもあるが、資料や年表の見方など同じところもある。学力層によってはそのチャンネルがうまく切り替えられない生徒もいるので、日常を入口にして先生がうまく誘導してあげる必要がある。そうすることで先生が連れていきたい目的に進んでいける。

参加者 17名

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