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第86回「地理授業や課題研究における探究的な学びの指導の工夫」(「地理総合」研究チーム)

 第86回の研究会は、鳥取県の公立高校に勤務しておられる先生から、「地理授業や課題研究における探究的な学びの指導の工夫」について発表していただきました。

地理総合・地理探究で求められる探究に至る学習展開


 新学習指導要領では、地理総合・地理探究ともに「主題」や「問い」を中心に構成する学習活動が求めています。さらに地理探究では、定まった答えのない課題を対象に試行錯誤を重ねながら探究する活動を通して、日本の将来の担う生徒自身が、日本の地理的な課題の解決の方向性を、批判的思考力を働かせて議論するなどの活動によって、あるべき国土像を見いだそうとすることができるよう、授業をデザインしていくことが求められています。 「主題」や「問い」を中心に構成する学習活動も、こうした現実の課題解決にむけて探究できる資質・能力の育成をねらっています。

 この「探究の力」を生徒と教師がともに身につけていく必要があります。まず、生徒の「探究の力」を伸ばすために、報告者は「主題」や「問い」を中心に構成する授業のほかに、課題研究やESD研修プログラム、人文科学部での調査研究等など、教科等の枠を越えて取り組まれています。

地理総合・地理探究(地理A・地理B含む)の事例


 地理の授業では、KCJ「知識構成型ジグソー法」やPBL(プロジェクトベースドラーニング)等の手法を用いて探究的な学習を授業で実践しています。
 例えばKCJでは、「あなたが鳥取市長なら、中心市街地を再生させるために、どのような都市計画をつくり、どのような機能を中心市街地に持たせると良いと考えますか?」というメイン課題を設定し、以下のA~Cのパートに分かれてエキスパート活動をしたのち、ジグソー活動で3つの考えを持ち寄ってメイン課題を解くという展開を実践されています。最後には、考察したことをもとにポスターを作成し、ポスター発表を行います。

【エキスパート資料】
A 「なぜ、イギリスの地方都市の中心市街地は衰退しない?」
B 「なぜ、アメリカ合衆国のある地方都市では、中心市街地が再生した?」
C 「なぜ、新潟県長岡市は中心市街地再生の成功事例とされている?」

 PBLの事例としては、「都市デザインプロジェクト あなたの街の20年計画をつくろう」という、地域の20年計画をつくる活動を行う学習を行っています。

 そのほかに、自然環境と防災については、「なぜ『地形を知り、災害を知り、災害に備える』ことが大切なのか」という問いを設定し、鳥取市に残る自然災害伝承碑を手がかりに、伝承碑がその地に残っている意味を探究していく活動を行った。この活動を通して、教科書で学ぶ小地形の知識や地図を読み取る技能を生徒にとって身近な地域の調査に活用することで、地域の地理的な特徴を発見し、それが地域の災害や人々の生活にどのような影響を与えてきたか、地域にはどんな災害リスクがあるのかなどについて、自分事として考察していく生徒の姿がみられました。

学校で取り組んでいる課題研究の事例


 報告者の勤務校では、3年間にわたって生徒が課題研究にとりくんでいます。各学年1単位で、1年次は企業研修とPBL探究、2年次はグループ研究と課題研究AP、3年次は論文執筆と研究発表を行います。それに加えて、特別活動として多くの研修プログラムを企画し、生徒の様々な体験の機会を保障しています。SSHや鳥取県グローバル教育重点校、理数教育重点校などにも指定されたほか、三菱みらい育成財団教育プログラムを採択することで予算も獲得し、それを使って様々な研修プログラムを実施できるようになっています。

特別活動として実施したESD研修プログラム


 報告者の勤務校では、ESDの視点から計画した以下の研修プログラムを実施しています。
・佐治フィールド研修
・鳥取グローバルESDプログラム
・大分県プログラム
・ラオスESDプログラム
・海外オンライン研修プログラム
・海星砂のフィールド研修
・西表島プログラム

 佐治フィールド研修では、「佐治川流域の水環境と地域づくり」をテーマとする調査研究を通じて、歴史的な問題への対処の経過や、未来志向の問題解決を考察することによって、科学的教養を身につける機会とすること、さらに、佐治谷の水環境と9地域づくりについて科学的に正しく理解するとともに、水環境と社会、環境の関係性を考えることにより、文理を融合した学際的かつ総合的な科学的素養を身につけることをねらいとしています。
 具体的な活動例として、「小水力発電などの未来志向の問題解決」を目指して、実際に川へ行って水力発電の原理実験を行いました。
 研修の結果、参加した生徒の「新たなことを学ぶ探究心」や「科学技術や技術革新に関する意識や関心」、「地域の諸問題に関する意識や関心」が高まっている様子がみられました。
 鳥取グローバルESD研修では、鳥取県内の水や鉱産資源を、持続可能なESDの教材として活用することで、水や資源を科学的に正しく理解するとともに、地域づくりの観点から水や資源と社会、環境の関係性を考えることにより、文理を融合した学際的かつ総合的な科学的素養をみにつけることをねらいとしています。

 国内での研修のみならず、ハワイやラオスとのオンライン研修も実施しました。

人文科学部の活動


 人文科学部では、これまで様々な研究テーマについて調査研究を行い、発表する活動をしてきました。これまで取り組んできた主な研究テーマは「気候変動」、「城下町」、「地方交通」、「佐治漆」、「空飛ぶクルマ」です。フィールドワークは、企画から実施までを生徒とつくっています。

おわりに


 生徒が探究の力を伸ばす機会として、地理総合・地理探究の授業中の仕掛けのみならず、課題研究やESD研修プログラム、人文科学部の調査研究など、教科の枠を越え学校全体で体系化された学びを構想することが重要です。
 また、教師自身が探究の力を伸ばすためには、普段の授業を行うだけでなく、自分自身が「巡検企画者」「研究者」「専門的現地調査者」としての経験を積むことが必要です。
 さらに、「主題」や「問い」を中心に構成する学習を構成する力は、評価問題作成を通して様々な専門書等に目を通すことによっても養われると考えられます。

質疑応答


Q.同僚に、「そんなの大変すぎてできない」と言われないために意識されていることはあるか?
A.生徒自身がフィールドワークや研修に面白がって出かけたり、研究したり、発表したり、質問しあったり、楽しんでいる様子を先生がみると、「これは面白くて大事なことなんだ」ということがどの先生にもはっきりわかる。10年くらいかかったが、そのようにして教員間の共通理解を得ることができた。

Q.ご自身も学生時代に地理学の研究をされていたのか?
A.自身も地理学の研究をしていた。
Q.フィールドワークの目的は?
A.フィールドワークでは、どういうところが面白いところなのかを自分も一緒に探す。そうでないと、課題の設定が難しいと思う。どの研修プログラムも、「生徒の心に灯をともす」ことをねらっている。全校生徒の2割ぐらいがプログラムに参加すれば、学校全体への波及効果が見込める。

Q.地理総合・地理探究の「主体的に学習に取り組む態度」の評価はどのようにされているか?
A.身につけた力を現実の課題解決などに使おうとしているかを見とる。ペーパーテストでは、授業で設定した課題解決的な問いやテーマと類似する課題を提示し、身につけた知識を使おうとしているかをはかることもできる。

【議論】
・フィールドワークを行う際、時間的な制約と予算の制約がある。時間については、教科の授業時間内で行う場合、50分間で学校に戻ってこれる範囲でのフィールドワークをせざるを得ない場合が多いため、できることが制限される。
→生徒の生活圏内や通学路をフィールドにする。予算は、様々な指定事業を受けることで予算を確保する。

・まずは先生自身が面白がっていろんなことを深堀しようとしているかどうかが大事なのかなと思った。

・専門科学と教科のつながりが大事。地理学の見方・考え方を身につけておく必要があると思った。

・学校全体で体系的な探究活動を行うにあたり、報告者の勤務校では、全教科のシラバスを横並びし、いつ・どの科目が・どんな単元の授業をするのかを共有している。これにより、教科をこえた学習の広がりを教員自身が意識するようにしている。

参加者:11名

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