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第105回 「『つながり』に気づく力を育成する地理総合の授業実践」(「地理総合」研究チーム)

第105回は上のタイトルで地理総合の授業実践を報告していただきました。大項目Bの中項目(2)地球的課題と国際協力の報告です。遠い国の課題もたどってみれば自分の生活と繋がっている。生徒が、それに気づいて地球の課題を自分事として捉えられることを意識して授業を組まれたそうです。そこで取り入れられたのが、システム思考(事象同士のつながりを理解し、複雑な物事の構造を把握すること)です。ミステリー(事象が説明された10〜30枚䛾カードを関連付け、大きなストーリーを作る)というツールを用いてつながりに気づく力の育成を目指しました。つながりに気づいたら、SDGsを絡めた課題解決策の提案も行います。生徒たちはゲーム感覚で提示されたカードを操り、授業者が予想しなかった意外なつながりを見つけたグループもあったり、活発に議論することができてシステム思考の力を向上させることができ、また、事象のつながりを踏まえたSDGsの探究活動でもよく練られた作品が多かったそうです。ただ、授業後のコメントなどをみると自分事にできているかどうかは疑問で、抽象的だったり、あまり深い思考とは言えないものが多いところが反省点ということでした。

ー 質疑応答 ー
・「自分ごと」になっていると判断できるコメントはどのようなものか?それはなぜか?→地球的な課題でも、自分がなにかしなければだめだ!という記述があれば自分事と捉えていると判断していいのではないか。また、課題解決策が具体的であれば自分事として捉えていると判断したい。CO₂を減らそう、電気の無駄遣いやめよう、ではなくこのプロジェクトを実施することで電気の無駄遣いはなくなるなど。
・システム思考で、地球的課題は様々な要因が複雑に絡み合っていること、だからこそ解決が難しいことに気づくと思うが、SDGsを絡めて解決策を考えさせたときに「解決できそう」と考える生徒が多かったのか、調べれべ調べるほど「無理だろう!」と思う生徒が多かったのか、そのへんの感触を聞かせてほしい。→実際、物事が複雑すぎてSDGsを絡めて解決するのは無理だとコメントした生徒もいた。ただ、2030年を目標達成年限としているのに未だに解決できていないSDGs解決の難しさをシステム思考の観点から気付いた生徒が多かったことには多少手応えを感じている。→解決策の考察を生徒に丸投げすることは多いが、解決の事例も示さず考えさせるのは卑怯ではないかという気もする。せめて解決した事例が一つでも紹介できれば、生徒は複雑な課題でもいつかは解決できる見通しがもてるのではないか。
・どんな形でシステム思考の授業法に触れたのか。→「地理」と書いてある本は買ってしまう。書店で見つけて「何だろう?」がきっかけ。→システム思考の研究会に参加してみると面白いかもしれない。
・家畜のために飼料を輸入しているという生徒の意見、別海は牧草が多いのに輸入しないといけないのか→牧草は多いがデントコーンなどの穀物飼料は栽培できない。生徒に酪農家の子が多いので聞いてみるとかなりの量を輸入しているらしい。→デントコーンを食べさせなくてもよいはず。生徒は、デントコーンを食べさせなければならないのは肉の需要が高まって餌が足らなくなったから外国からの飼料に頼っていると考えているのか。この辺が先生が出した教材が自分ごとになるかどうかの境目。バイオ肉の解決案を出した生徒の家は?→牧場の子→牧場の子が自分事として捉えた結果、家業に反するがバイオ肉がよいと言ったのか?「本当にそれでいいのか?」と一言聞いてあげれば、自分の家業をなくす可能性も含めて自分事になるのではないか。もう少し別海という素材を活かすほうが良いと思う。

ー 以下議論(地理総合B(2)の単元をどのように進めたか、社会的課題を自分事として生徒に捉えさせる工夫は?) ー
・アプリを使って自分の住んでいる地域と対象地域を比べて自分事にしていく。例えば氾濫地域と比べるなど。防災と地域調査に力を入れて、自分も地域の一員と意識付ける。
・社会課題の解決策を求めがちだが、解決策は何でもありなのかという疑問がでた。現代の社会的課題は簡単に解決できないものが多い。例えば戦争はなかなかなくならないのは国際政治の課題。それを解決しようとする自らの姿勢だったり、胴回りを巻き込んでいくかというところが大事。自分が生きているうちには解決できないかもしれないものをどう自分事にしていくか、解決できないかもしれない課題を抱えている世界にどう向き合うか、そしてそれを諦めない、そういうところが大事。解決の困難性の方にポイントがあるかもしれない。
・自分ごと化させるためには生徒と1対1で対応する機会を取り入れる。パフォーマンス課題を取り組ませている間に1人ずつ生徒の生活や将来に結びつくように攻めていく。例えば、公共。ビッグモーターの不祥事の問題をを調べている生徒(土木科)に、現場監督として仕事をしている時に下請業者が設計図と1ミリ違う仕事で完了してきたと仮定して、やり直させるか。今からやり直したら赤字で、見逃してくれへんかったらあなたの名前を中小の下請け企業に言いふらすと言われたら、と聞くと、生徒は1ミリぐらいしょうがないかと答える。ほら、ビッグモーターになったやろ!みたいな。もちろん不正は悪いけど、そう単純ではないことに気づいてもらうようなやり取りをする。自分事化させる時間を取る工夫。
・中学校の中でどういうことをやってるか。ステップアップしてより高いレベルへ学習をうまくつなげることができる子どもたちの場合はいいが、同じ場合は、やっぱり中学まで一回戻ってあげて、それを踏み台にして高校の地理総合や地理探究へいけるようにしないと、一挙にシステム的思考までできるのか。つながりを見つけるのは難しい。中学校の教科書の中で、地理総合的なもの、あるいは地理探究的なものがどこまでやってるか、それを高校ではどうしてあげるとうまくつながるか、レベルアップできるかを考えることが一つ。さらに歴史や公民や同じような問題の取り扱い方、歴史の歴史総合や公共の取り扱い方と地理探究へ広げてくるときの問題をある程度同じようなステップでやってあげると、高校生は地理総合、歴史総合から地理探究、歴史の探究の方にうまくいく。

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